
旅は、特別な出来事の連続だと思っていた。けれど家族で長い時間をかけて走ってみると、少し違う景色が見えてくる。
観光地を巡るだけではなく、食事をして、眠って、また走る。そんな日々の繰り返しが、いつの間にか旅そのものになっていく。
この旅では、車に日常を積み込み、北海道をゆっくりと巡った。絶景の道を走る日もあれば、小さな町で足を止める日もある。
予定通りに進むこともあれば、思いつきで引き返すこともあった。それでも振り返ってみると、どの時間も確かに旅だったと思う。
これは、家族で過ごした「暮らすように旅する北海道」の記録である。


大阪から北へ走り続け、気がつけば道は日本の最果てへと近づいていた。
海沿いを貫くオロロンライン、風車が並ぶ海岸線、白い丘の道。北海道のスケールを感じる景色の先に、旅人たちが目指す岬がある。
日本最北端、宗谷岬。
この章では、そこへ向かう道のりを辿っていく。
北の最果てへ、絶景の道を走る

札幌の友人宅を後にし、ぼくたちは再びハイエースに乗り込み、進路を北へと向けた。ここからの目的地は、日本の最果てにある宗谷岬。
距離にして決して近くはないが、急ぐ理由も特にない。日本海沿いの道をなぞるように走りながら、少しずつ北へ。
その日の景色を眺め、気になる場所があれば車を停める。そんなふうに旅のリズムを保ちながら進んでいく。
宗谷岬には、特別な観光施設があるわけでもない。それでも、日本の一番北まで行ってみたいという気持ちは、旅人なら一度は抱くものかもしれない。
ぼくたちもまた、その「最果て」を目指して車を走らせていた。稚内へ続く道のりには、北海道のスケールをそのまま感じられるような景色が次々と現れる。
広い空と、どこまでも続く海岸線。そんな雄大な道を辿りながら、家族三人の北への旅が静かに続いていった。
海と風車の回廊をもう一度


この旅の大きな目的のひとつが、ここ「オトンルイ風力発電所」をもう一度訪れることだった。日本海に沿って伸びるこの道には、約3kmにわたって28基の風車が整然と並んでいる。
そのスケールは日本でも屈指とも言われ、北海道を代表する絶景のひとつとして知られている場所だ。稚内へ向かうこの道は、ライダーにとっても定番のツーリングコース。
果てしなく続く空と海、そして風を受けて回り続ける巨大な風車。北海道らしい広大な風景を感じられる場所として、多くの旅人が立ち寄っていく。
ちなみに「オトンルイ」という名前は、アイヌ語で「浜にある道」という意味。まさにこの場所の景色を、そのまま言葉にしたような名前だ。


この風景は、ぼくにとって特別な思い出が残る場所でもある。まだ若かった頃、自転車で北海道を旅していたとき、この道を走った。
あのとき見た風車の並ぶ景色は、今でもはっきり覚えている。
そして今、同じ場所に家族と一緒に立っている。かつて自転車で走った道を、今度はハイエースで辿ってきた。
実はこの風力発電所は2003年頃から稼働していて、すでに20年近くが経過している。老朽化のため新しい設備へ建て替えが決まっていて、この景色も近い将来見られなくなるという。
だからこそ、取り壊される前にもう一度この目で見ておきたかった。家族と、愛車と一緒に。この風の回廊にもう一度立てたことが、ただただ嬉しかった。

すでに新しい発電設備の建設も始まっていた。新型の風力発電基は従来よりもはるかに大きく、一基あたりの発電効率も高いらしい。
少ない基数でもこれまでと同等、あるいはそれ以上の電力を生み出せるという。つまり、今のように風車がずらりと並ぶ景色は、いずれなくなってしまう。
野鳥の衝突事故(バードストライク)など、自然環境への影響を考えると、こうした変化も必要なことなのだろう。
それでも、この風景が多くの旅人の記憶に残り続けることは、きっと変わらないはずだ。
果てしなく続くまっすぐな道



日本海沿いを北へと走るオロロンライン。その中でも、天塩町から稚内へ向かうこの区間は特に印象に残る道だ。
視界を遮るものはほとんどなく、まっすぐな道路が地平線へ向かって伸びていく。左右には広い空が広がり、海と空の境界さえ曖昧になるような景色が続く。
振り返れば背後には、広大なサロベツ原野。開けた大地の向こうには、どこまでも続く北海道らしい風景が広がっている。
天気の良い日には、遠く日本海の向こうに利尻島の姿が浮かび上がることもある。海の上にぽつりと現れるそのシルエットは、まるで北の海に浮かぶ山のようだ。
派手な観光地があるわけでもない。特別な建物が並んでいるわけでもない。
それでも、この道を走っているとふと感じる。ここには、日本ではなかなか味わえない「なにもない」という贅沢な風景があるのだと。
貝殻の白い道を経て、丘陵を巡る




稚内の町に入ると、日本最北端の宗谷岬はもうすぐそこ。けれど、その前に少しだけ寄り道をすることにした。
向かったのは、宗谷丘陵に広がる「白い道」。この道は、ホタテの貝殻を砕いて敷き詰めて作られた真っ白な一本道。
足元に広がる白と、丘を覆うやわらかな緑、そして空の青。三つの色が重なり合い、どこか現実離れしたような風景をつくり出している。
道はなだらかな丘陵を縫うように続き、その先には宗谷海峡が静かに広がっている。視界を遮るもののない丘の上に立つと、北の大地の広さを改めて感じさせてくれる。
北海道の中でも、とりわけ開放感を味わえる場所のひとつ。最北端を目指す旅の途中で、思わず車を降りて歩きたくなるような景色が広がっていた。



丘の上から宗谷丘陵を見渡していると、この土地の静かな豊かさがよく分かる。
草原のあちこちには、のんびりと草を食む黒牛の姿。広い牧草地の中で放牧されている様子は、とても気持ちよさそうに見える。
そして目を凝らすと、丘の斜面や草原の向こうに、野生の鹿の群れが現れることもある。北海道では珍しい光景ではないけれど、稚内では特に多く見かけた気がする。
見晴らしの良い場所から丘陵を眺めていると、どこかに鹿の姿が見つかることも多い。広い大地の中で、動物たちが当たり前のように暮らしている景色がそこにあった。
そして遠くの地平線には、風力発電の風車がゆっくりと回っている。
牛がいて、鹿がいて、その向こうに風車が並ぶ。人の営みと自然の風景が、違和感なく重なり合う。そんな北海道らしい景色が、宗谷丘陵には広がっていた。

宗谷丘陵に広がるこのなだらかな風景は、ただの草原ではない。実はここは、日本では珍しい氷河期の痕跡が残る地形として知られている場所でもある。
およそ2万年前の最終氷期、このあたり一帯は永久凍土に覆われていたと言われている。
その後、地面が凍ったり溶けたりを繰り返すことで、土がゆっくりと動き、現在のような緩やかな起伏を持つ丘陵地形が形づくられた。
こうした地形は「周氷河地形」と呼ばれ、丘の斜面には波のように続くやわらかな曲線が今も残っている。
木々の少ない広い草原と、この独特の地形が重なり合うことで、宗谷丘陵にはどこか日本離れしたスケールの風景が広がっている。
こうした貴重な自然環境が評価され、この地域は北海道遺産にも選定されている。最北の大地が刻んできた長い時間の流れを、今も静かに感じられる場所なのだ。
旅人の聖地、宗谷岬に立つ


大阪を出発してから、ここまで約2300km。
ついに日本最北端、宗谷岬に立った。
目の前に広がっていたのは、どこまでも澄み渡る青空。まるでこの旅を祝福してくれているかのような、気持ちのいい快晴だった。
北海道のてっぺんに位置するこの岬は、日本最北端の地として多くの旅人が憧れる場所。
海沿いの広場には、三角錐の形をした「日本最北端の地の碑」が立ち、ここが日本の北の端であることを静かに伝えている。

晴れた日には、宗谷海峡の向こうにサハリンの島影がうっすらと見えることもあるという。
強い海風と荒々しい海に包まれたこの場所には、いかにも「最果て」と呼ぶのにふさわしい景色が広がっていた。
広い空と冷たい海に囲まれながらここに立っていると、「本当に日本の北の端まで来たんだな」と、旅の実感がゆっくりと胸に広がっていった。





最果ての岬と聞くと、どこか人の気配が少ない静かな場所を想像してしまうが、宗谷岬の周辺は意外にも観光地らしい賑わいがある。
岬の周りにはお土産店や食堂がいくつも並び、多くの観光客が入れ替わり立ち替わり「日本最北端の地の碑」の前で記念撮影をしていた。
日本の北の端という特別な場所だけあって、誰もがその到達の瞬間を写真に残したくなるのだろう。そんな観光客たちのすぐそばでは、野生のエゾシカがまるで自分の庭のように芝生や草を食べている。
近づいてもほとんど逃げる様子はなく、その落ち着いた様子は関西で言えば奈良公園の鹿のよう。人の気配にもすっかり慣れているようだった。
このあたりにある施設は、とにかく何でも「日本最北端」を名乗れるのも面白いところだ。もちろん近くのガソリンスタンドも例外ではなく、「日本最北端給油所」を掲げて営業している。
給油すると記念品がもらえるサービスもあり、旅人にとっては思わず立ち寄りたくなる場所になっていた。

そして宗谷岬を訪れたら、ぜひ手に入れておきたいのが「日本本土四極到達証明書」。
宗谷岬の展望台にある施設などで発行してもらえるもので、日本本土の四つの端を訪れた証として旅人の間ではよく知られている。
ぼく自身、この証明書は以前の一人旅でもらったことがあるのだけれど、今回は家族でここまで来られた記念に改めて発行してもらうことにした。
ちなみにこの証明書、四極すべてを集めて裏返してつなげると、一枚の地図になるように作られている。
そんなちょっとした仕掛けも面白く、旅好きの人なら思わず全部集めたくなるはずだ。もし宗谷岬を訪れたなら、ぜひ手に入れてみてほしい。
日本一早い紅葉を求めて、旭岳へ




宗谷岬を目指して北上してきた今回の旅だが、実はその前に一度内陸へと寄り道をしていた。
向かった先は旭川のさらに奥、大雪山系の主峰・旭岳。日本で最も早く紅葉が訪れる場所として知られる山だ。その景色を一度見てみたくて、この旅の行程に組み込んでいた。
ただ、赤ちゃん連れとなると本格的な登山はなかなか難しい。そこで頼りになるのが旭岳ロープウェイだ。これを使えば一気に標高を稼ぐことができ、気軽に高山の景色を楽しむことができる。
料金は大人往復3,200円と決して安くはないが、この環境に気軽にアクセスできることを思えばありがたい存在だ。
この日の旭岳は紅葉シーズン真っ只中。
ビジターセンター前の駐車場にはすでに入場待ちの列ができており、その人気ぶりがうかがえた。準備を整え、モンベルのベビーキャリアに息子を乗せて歩き出す。
抱っこ紐よりも荷重が分散されるので歩きやすく、多少の荷物も一緒に運べる優れもの。赤ちゃん連れで山を歩くにはとても頼りになる道具だ。
ロープウェイに乗り込むと、周囲の登山客から「かわいいね」と声をかけてもらう。こうしていろいろな場所に連れ出しているからか、息子は人見知りもほとんどなく、とても愛想がいい。
登山が趣味という方はご年配の方も多く、皆まるで孫を見るような優しい表情で声をかけてくれた。




ロープウェイを降りると、そこには一気に視界が開け、旭岳の雄大な景色が広がっていた。旭岳は特別に難しい山ではないとはいえ、今回は山頂を目指すつもりはない。
まだ小さな息子と一緒なので、無理はせず姿見の池周辺の周回コースを歩くことにした。
このコースなら所要時間はおよそ一時間ほど。起伏も比較的穏やかで、のんびりと高山の景色を楽しむことができる。
すり鉢池や姿見の池の水面には、うっすらと旭岳の姿が映り込んでいた。
そしてこの日は雲ひとつない快晴。日本一早い紅葉を狙って時期と天気を見定めて来たこともあり、その景色を目の前にすると自然と気分が高まってくる。

第一展望台まで歩き、噴煙を上げる地獄谷を眺めながら、ふとそんなことを考えた。いつか息子がもう少し大きくなったら、今度はこの旭岳の山頂まで一緒に登ってみたい。
けれど、焦る必要はない。今できる範囲で、今しかできない旅を楽しめばいい。
第一展望台では、旭岳を背景に妻と息子のツーショットを撮った。息子にとっては、これがはじめての登山の記念写真。この一枚を残せただけでも、ここまで来た価値は十分にあった。
夜が越えるたび、旅は暮らしになる

宗谷岬へたどり着くまでの道のりを振り返ると、札幌を出発してからここまでの間にも、いくつものキャンプ場で夜を過ごしてきた。
北海道には海沿いを中心に魅力的なキャンプ場が数多くあり、どこも広々としていて気持ちのいい場所ばかりだ。
この頃は天気にもよく恵まれていた。海沿いに出ると晴ればかり続いた印象が強い。夕暮れには海へ沈んでいく夕陽を眺め、夜になれば空いっぱいに広がる星を見上げる。
静かなキャンプ場で食事をして、車の中で眠りにつき、朝になればまた北へ向かって走り出す。そんな日々を重ねていると、ふと気づく瞬間がある。
これはただの移動の連続ではなく、どこかで「暮らしている」ような感覚でもあるのだと。夜がひとつ越えるたび、旅は少しずつ生活に近づいていく。
札幌から宗谷へ向かう道のりの中で、ぼくたちはそんな時間を過ごしていた。
黄金岬、沈む光を見送って

北海道北部、留萌の町外れにある黄金岬。日本海に向かって小さく突き出した、静かな岬だ。
名前の通り、夕暮れになると海と空がゆっくりと黄金色に染まり、水平線へ沈んでいく夕日が圧倒的な美しさを見せてくれる。
かつてこの一帯はニシン漁で大いに栄え、「海が黄金色に輝くほどニシンが獲れた」という言い伝えが、この岬の名前の由来とも言われている。
今ではその面影を残しながら、海を見渡す展望公園として整備され、穏やかな海岸線と広い空が旅人を迎えてくれる場所になっている。


黄金岬キャンプ場は観光駐車場に芝生サイトが隣接しているキャンプ場で、目の前には岬と遮るもののない水平線が続いている。
夕暮れになると、その水平線へ沈んでいく夕日を真正面から眺めることができ、海はゆっくりと黄金色に染まっていく。
海風を感じながら静かに過ごす夕方は、それだけで贅沢な時間だった。マジックアワーに染まる空と海はまさに絶景だった。
オロロンラインを旅する人たちの間でも、このキャンプ場は人気の宿営地として知られている。無料とは思えないほどのロケーションで、日本海の夕景を眺めながら過ごす一夜は、この旅の中でも印象に残る時間だった。
みさき台で絶景に囲まれて


初山別村にある「みさき台公園キャンプ場」、ここは今回の旅の中でも、かなり満足度の高かったキャンプ地のひとつだった。
日本海を見下ろす高台に広がる大きな公園で、とにかく開放感がある。広々とした芝生の向こうには海が広がり、空もとても大きく感じられる場所だ。
しかもこの場所、すぐ隣には道の駅があり、温泉も徒歩圏内という便利さ。旅の途中で立ち寄るキャンプ地としては、かなりありがたい立地になっている。
園内にはレストランや天文台のほか、ゴーカートやパークゴルフ場までそろっていて、ちょっとしたレジャー施設のような充実ぶり。家族連れでも一日楽しめそうな場所だった。
これだけ設備が整っていながら、キャンプ場は無料で利用できて予約も不要。北海道のキャンプ環境の懐の深さを感じさせてくれる場所だった。




この日は天気にも恵まれ、夕暮れから朝までずっと素晴らしい景色を見せてくれた。
夕方になると、日本海の水平線へゆっくりと沈んでいく夕陽。空と海が柔らかな色に染まっていく時間は、ただ眺めているだけで満たされるようなひとときだった。
夜になると、今度は空いっぱいに星が広がる。この場所に天文台があるのも納得できるほど星空は美しく、少しキャンプサイトから離れると天の川もくっきりと浮かび上がっていた。
そしてこのキャンプ場のもうひとつの主役が、日本海の向こうに浮かぶ利尻富士だ。
夕暮れのマジックアワーの中でシルエットとして浮かび上がる姿も、朝の光の中でくっきりと見える姿も、とにかく美しい。思わずいつまでも眺めていたくなる景色だった。
道北へ向かう旅の途中、この場所にはまた必ず泊まりたいと思う。
無料キャンプ場ということを考えると、個人的にはこれまで訪れた中でも一番と言っていいほどお気に入りの場所になった。
鹿の気配と眠る稚内森林公園



宗谷岬を訪れる前夜は、稚内森林公園で車中泊をした。
市街地から少し離れた高台の公園で、住宅地や大きな国道からも距離がある。夜になると周囲は驚くほど静かで、森に包まれた落ち着いた時間が流れていた。
園内は広大な森に囲まれていて、あちこちに鹿の気配がある。地面には至るところにフンが落ちていて、夜になると森の奥から甲高い鳴き声も聞こえてくる。
道外ならかなり山奥のキャンプ場のような環境だけれど、ここは稚内の街のすぐ近く。そんなスケール感の違いにも、北海道らしさを感じた。
しかもこの場所、無料で利用できるうえにゴミ捨てまで可能という懐の深さ。宗谷岬にも近く、旅人たちに人気の車中泊スポットになっているのも納得だった。
旅の途中で、ふと足を止めた味

息子もこの頃は離乳食の割合が少しずつ増えてきていて、以前のように気軽に飲食店へ入る機会はあまり多くなかった。
その代わり、この時期はセコマで買ったごはんや、電子レンジを使った簡単な調理で済ませることが多かった気がする。車旅ならではの、ゆるい食事スタイルだ。
それでも、せっかくの旅。道中で出会った美味しいものは、無理のない範囲でちゃんと楽しんでいた。
ここでは、その中でも特に印象に残っているものをいくつか紹介していこうと思う。
札幌ラーメンハウス感動の一杯


友人宅を出発してすぐ、まず立ち寄ったのが「満足ヌードル ラーメンハウス」だった。
札幌といえばやっぱり味噌ラーメン。有名店はいくつか訪れたことがあるけれど、ここは友人夫婦が「とにかく一度食べてほしい」と、強くすすめてくれた店だ。
世界中を旅してきた二人が口を揃えて「ここが一番うまい」と言うのだから、期待しないわけがない。
しかもラーメン単体で500円以下という破格の値段。今はさすがに少し値上がりしているらしいけれど、それでも他の店と比べると驚くほど安い。


運ばれてきた「あま味噌ラーメン」をひと口すすった瞬間、香ばしい味噌の香りとうまみがふわっと広がる。思わず顔がほころぶような、そんな一杯だった。
チャーハンとのセットでも700円ちょっと。本当にこの値段でいいのかと心配になるくらいだ。
もともとラーメンがそこまで好きではない妻も、ここだけは「また食べに行きたい」と言うほど。気づけば何度も思い出してしまう、不思議と中毒性のある味だった。
富良野とりせいの焼き物

旭岳へ向かう道中、富良野で立ち寄ったのが「鳥せい」だった。
赤と白のボーダーカラーの外観に、にわとりのネオン。通りを走っていると、思わず目に入ってくるような印象的な店構えをしている。
ここは冷凍肉を使わず、新鮮な鶏を使った料理が人気の店で、地元の人たちにも長く愛されているらしい。
旅の途中でふらっと立ち寄った店だったけれど、富良野の夜にぴったりの、香ばしい鶏料理が楽しめる一軒だった。


運ばれてきた若どりの唐揚げは、外は香ばしく中はとてもジューシー。ひと口かじると肉汁が広がって、思わず箸が止まらなくなる。
炭火で焼かれた焼き鳥も、ぷりっとした食感で香ばしい香りがたまらない。シンプルだけれど、鶏そのものの美味しさをしっかり感じられる味だった。
富良野は夜遅くまで営業している飲食店が意外と少ないので、こうしてゆっくり食事ができる店があるのは旅人にとってありがたい。
今回は車旅だったのでお酒は飲まなかったけれど、生ビールが350円とかなり良心的な値段。もし泊まり旅だったら、きっともう一杯頼んでいたと思う。
鶏料理をお腹いっぱい食べたい人や、富良野でゆっくり晩酌したい人にはぴったりの一軒だ。
稚内のボリューム亭の定食

稚内では海鮮など色々と食べたいものもあったのだけれど、人気店は予約で埋まっていたり、臨時休業だったりとなかなかタイミングが合わない。
そんな中でたどり着いたのが「ボリューム亭」だった。
稚内駅から徒歩5分ほどの場所にある食堂で、どこか昭和の雰囲気を残した落ち着いた店内。喫茶店のような空気もあって、旅の途中にふらっと立ち寄るにはちょうどいい居心地の店だ。



ここは名前の通り、とにかく料理の量が多いことで知られる“爆盛り洋食”の店。地元の人はもちろん、観光客にも人気らしい。
この日はハンバーグとライスの単品、そしてヒレカツ定食を注文した。
運ばれてきた料理は噂どおりのボリュームで、空腹だった胃袋をしっかり満たしてくれる。量が多いだけでなく味もきちんと美味しくて、人気店なのも納得だった。
ただ、妻にとってはさすがに量が多すぎて食べきれず。残ったごはんはパックに詰めて持ち帰ることができたのもありがたかった。
記憶に残る、モニュメント写真





北海道の道を走っていると、思わず足を止めたくなるようなモニュメントによく出会う。
一度見たら忘れられないような個性的なものも多く、こうしたユニークな構造物は写真に収めていても楽しい存在だ。
その中でも特に印象に残っているのが、ノシャップ岬のイルカモニュメント。夕暮れの空を背景に、家族のシルエットが浮かび上がる一枚になった。
最北の街にたどり着くまでの道のりを、この写真が静かに物語ってくれているような気がしている。
稚内から札幌へ、ハンドルを切る


宗谷岬をあとにしたぼくたちは、猿払方面へとハンドルを切った。
オホーツク海沿いの国道をそのまま走っていると見落としてしまいそうになるが、ここには北海道を代表するもうひとつの絶景の道「エサヌカ線」がある。
遮るもののない一直線の道は、まさに地平線の中を走っているような感覚だった。
道北を目指す旅路としての魅力や、オトンルイ風力発電所の区間なども含めれば、オロロンラインは日本でも屈指のドライブルートだと思う。けれど、北海道の雄大さを一番ストレートに感じられるのは、このエサヌカ線かもしれない。
夕暮れの地平線を眺めながら、ここまで走ってきた旅路をゆっくり噛みしめていた。

そしてこの日の締めくくりに立ち寄ったのが、クッチャロ湖。北海道でも屈指の夕景が美しいといわれる湖で、静かな水面がオレンジ色に染まっていく。
湖を眺めながら、ここまでの旅を少し振り返っていた。
少しずつ、この旅が「暮らし」に近づいてきている感覚はある。けれど同時に、赤ちゃんを連れながらの移動と屋外生活の繰り返しには、やはり疲れも出てきていた。
本当なら北海道をぐるりと一筆書きで回るのが、旅としてはいちばん美しい形かもしれない。けれど、長い旅というものは、ときに寄り道や小さな休息があった方が心地いい。
妻とふたりで話し合い、いったん札幌の友人宅へ戻ることにした。
旅はきっと、自由であることがいちばん大事だ。それに、一度ですべてを回りきってしまったら、またここへ戻ってくる楽しみも減ってしまう。
こうしてぼくたちは、翌日には高速道路を使って札幌へと蜻蛉返りすることになった。オレンジ色に染まるクッチャロ湖の夕景が、この日の旅を静かに締めくくってくれた。

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