冬の西吾妻山へ、樹氷に覆われた雪原を歩きに出かけた。
青空の下に広がるリトルモンスターの群生。夕暮れとともに表情を変える雪原、そして避難小屋のそばで見上げた満天の星空。兵庫から約750kmの道のりを越えてたどり着いた山では、思い描いていた以上の景色が待っていた。
一方、翌朝は一転してホワイトアウトに見舞われ、前日に歩いた道を頼りに下山することに。美しい樹氷原の姿と、冬山の厳しさ。その両方を体感した一泊二日の山行を振り返る。
西吾妻山の登山ルートと行程

西吾妻山の樹氷を目指す今回のルートは、グランデコからパノラマゴンドラとリフトを乗り継ぎ、西大巓を経て西吾妻山の山頂へ向かうコース。今回は2024年2月13日〜14日の2日間で歩いた。
ゴンドラとリフトを利用して標高を稼げるため、登山口から歩き始める一般的な登山ルートに比べて、アプローチを短縮できるのが特徴だ。
ゲレンデから西吾妻山の山頂までの標高差は約600m。登りの大部分は西大巓までの区間に集中している。西大巓を越えると大きなアップダウンは少なくなり、樹氷に覆われた木々を眺めながら、開放的な雪原を進んでいく。
蔵王のスノーモンスターと比べると、西吾妻山の樹氷はやや小ぶり。それでも、広大な平原を埋め尽くすように連なる姿は圧巻で、「リトルモンスター」とも呼ばれている。
晴れた日には、白く染まった飯豊山や朝日連峰、月山など、東北を代表する山々を一望できる。樹氷の森と雄大な山並みが織りなす景色は、このコースならではの魅力だ。
登山道に大きな難所はないものの、冬山ならではの注意が必要だ。天候が崩れると、周囲が雪と雲に覆われて視界を失うホワイトアウトが起こることもある。
目印を見失えば道迷いや遭難につながる危険があるため、事前に天気予報を確認し、悪天候が予想される場合は計画を見直したい。冬山に必要な装備を整え、無理のない行程で臨むことが大切だ。
西吾妻山の樹氷トレッキングは、グランデコからゴンドラとリフトを利用する日帰り登山でも楽しめる。今回は西吾妻小屋に宿泊し、夕景や星空も満喫したが、宿泊する場合は避難小屋の利用条件や設備、積雪期の状況を事前に確認しておきたい。
避難小屋は一般的な山小屋とは異なり、食事や寝具などのサービスが用意されているとは限らない。必要な装備を自分で準備し、ほかの利用者にも配慮して利用したい。
日帰りの場合は、ゴンドラやリフトの最終運行時刻を事前に確認し、余裕を持った下山計画を立てておこう。山頂までの往復時間だけでなく、積雪や天候によって歩行に時間がかかることも考慮しておきたい。
最終便に間に合わない事態を避けるためにも、当日の運行情報を確認し、時間に余裕がなければ無理に山頂を目指さず、引き返す判断も大切だ。
登山計画を立てる際は、登山地図でルートや地形を確認しておきたい。今回の山行エリアを収録した「山と高原地図 磐梯・吾妻 安達太良」も、コースの確認や計画づくりに役立つ一冊だ。
実際の歩行ログをもとに、今回歩いたルートを下の地図と標高図にまとめた。各区間の距離や標高、所要時間も確認できるので、西吾妻山の樹氷を見に行く際の行程をイメージする参考にしてほしい。
地図:国土地理院
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- グランデコ・パノラマゴンドラ山頂駅
- 第4クワッドリフト終点
- 西大巓
- 西吾妻小屋
- 西吾妻山
- 西吾妻小屋
- 西吾妻小屋
- 西大巓
- 第4クワッドリフト終点
- グランデコ・パノラマゴンドラ山頂駅
※行動時間・距離・標高差はヤマレコの記録をもとに掲載しています。
兵庫から福島へ、約750kmの深夜の大移動

兵庫から西吾妻山のある福島を目指し、仕事を終えたその足で深夜の移動を開始。荷物はあらかじめ車に積み込み、帰宅後はお風呂と食事を済ませて出発した。自宅を出たのは21時半ころ、目的地の福島までは約750kmの道のりだ。
カーナビに表示された到着予定時刻と高速料金を見て、改めてその遠さを実感する。名神高速道路から米原JCTを経由して北陸自動車道へ。日本海側を北上し、新潟中央JCTから磐越自動車道に入って猪苗代磐梯高原ICを目指すルートだ。
仕事終わりの疲れもあり、道中は眠気との戦い。意識が遠のきそうになるのをこらえながら、ひたすら東北を目指して走り続けた。


深夜の高速道路は交通量も少なく、移動は順調。磐梯山SAに到着したのは朝5時ころだった。
ここで少し仮眠を取ることにする。ハイエースの荷室には折りたたみマットを常に積載しているので、思い立ったときにすぐ横になれるのがありがたい。
目を覚まして外に出ると、澄み渡る青空の下に冠雪した磐梯山が姿を現した。出発の二週間前から天気予報を何度も確認してきただけに、狙い通りの快晴に心が躍る。
ひと休みを終え、高速道路を降りてグランデコスノーリゾートへ。いよいよ、冬の西吾妻山を歩く一日が始まる。
グランデコからゴンドラに乗り西吾妻山へ


グランデコスノーリゾートには朝8時ころに到着。平日にもかかわらず、駐車場にはすでに多くの車が停まっていた。
スキーやスノーボードを楽しむ人の姿もあったが、目についたのは雪山装備を身につけた登山者たち。平日は駐車料金が無料なのもありがたい。

今回は西吾妻山の避難小屋で一泊する計画。ザックはExpedのブラックアイス30を選び、食料や寝袋、バーナーなどを詰め込んだ。
スノーシューはmont-bellのギアホルダーを使って外付けに。雪山登山とはいえ、今回はアイゼンやピッケルといった本格的な登攀道具は持たず、必要な装備をコンパクトにまとめた。
荷物は前日までに準備しておいたので、到着後もスムーズに行動を開始できた。





チケットカウンターでゴンドラの往復券を購入。料金は1,800円(2024年2月当時)。
例年この時期はかなり混雑すると聞いていたため、長い列を覚悟していたものの、拍子抜けするほどスムーズに乗車できた。公共交通機関を利用する登山者が到着する前だったのかもしれない。
ゴンドラが山頂駅へと高度を上げていくにつれ、これから登る西大巓の姿がはっきりと見えてくる。白く大きく盛り上がった山肌は、よく目を凝らすと樹氷に覆われていた。
ゲレンデから樹林帯を抜けて西大巓へ


ゴンドラ山頂駅に到着すると、標高はすでに1,390mを超えている。ここから登山開始……といきたいところだが、この日はクワッドリフトが運行しておらず、ゲレンデの斜面を自力で登ることになった。
登り始めからなかなかの急登で、まだ身体が十分に温まっていないこともあり、振り返ればこの区間がいちばんきつく感じられたかもしれない。

ゲレンデを登り切ったところで、ザックに外付けしていたスノーシューを装着する。
今回持参したのは、ATLASの「ヘリウム MTN 26」。軽量性とグリップ力を兼ね備えた山岳用スノーシューだ。しなやかな樹脂製デッキを採用し、裏面には雪が付着しにくいルーバー構造を備えている。
全長66cm、ペア重量は約1.52kgと軽く、登りではヒールリフトを立てることで足首やふくらはぎへの負担を軽減してくれる。雪に覆われた山を歩き、樹氷の森を目指す今回のような山行にも頼もしい装備だ。




ゲレンデ上部のクワッドリフト乗り場脇から、いよいよ樹林帯へと入っていく。しばらくは人の背丈をはるかに超える大きな木々が続き、雪に覆われた森の中を登っていく。
風はほとんどなく、歩いているうちにじんわりと汗ばんでくる。無理にペースを上げず、一定のリズムを保ちながら淡々と高度を稼いだ。
このあたりの木々は、まだ樹氷のモンスターと呼べるほど雪に覆われてはいない。それでも、空を見上げると細い枝先に大きな雪の塊が絶妙なバランスで乗っている。
今にも落ちてしまいそうなのに、しっかりと枝にとどまっている姿が面白い。積雪や風などの条件がそろえば、この樹林帯でも見事な樹氷が見られる時期があるという。



やがて木々の間から少しずつ視界が開け、その先に西大巓のピークが姿を現した。周囲の木々も徐々にまばらになり、ひんやりとした風が吹き抜ける。
さっきまでの樹林帯とは空気が変わり、目の前には雪と氷をまとった木々が現れ始める。枝先に積もった雪が大きく膨らみ、少しずつスノーモンスターらしい姿へと変わっていく。
左手に目を向けると、会津を代表する山、磐梯山の尖ったシルエットが見えた。白く染まった山肌と、その手前に広がる樹氷の森。青空の下に広がる冬ならではの景色に、足を止めて眺めたくなる。



そして、標高1,982mの西大巓山頂に到着。山頂は広々としており、登山者が多い日でも休憩場所には困らなさそうだ。周囲を見渡せば、冠雪した朝日連峰や安達太良山など、東北を代表する山々が連なる。
視界を遮るもののない360度の大展望が広がり、ここまで登ってきた疲れも忘れるほど。樹氷だけでなく、遠くの山並みまで見渡せるのも、このルートの魅力だ。
広大な雪原に佇むモンスターの大群生

西大巓の山頂から西吾妻山方面を眺めると、なだらかな稜線の向こうに広大な樹氷原が広がっていた。険しい岩稜が連なる山とはまた違う、東北の山らしいおおらかな景色だ。
ここからはいったん100mほど下り、その先で登り返して西吾妻山の山頂を目指す。稜線を進むにつれて、樹氷の群生はさらに密度を増していく。木々が身を寄せ合うように立ち並び、雪原のあちこちに白いモンスターたちがひしめいていた。
首を垂れるように横倒しになったものもあれば、登山者の顔を覗き込んでいるような姿もある。自然がつくり出した造形はどれも個性的で、眺めているだけでも飽きない。



西吾妻山の樹氷は、その数の多さが印象的だ。これほど密集しているからか、完全に雪で覆われていないものも多く、白い雪の隙間から樹木本来の姿が顔を覗かせている。
細長く、もこもこと雪をまとった姿は、どこかお菓子のスコーンにも似ている。同じ場所に並んでいても、雪の付き方や風を受けた方向によって形は少しずつ異なり、ひとつとして同じものはない。

西吾妻山への登り返しを前に、歩いてきた稜線を振り返る。真っ青な空と真っ白な樹氷が織りなす景色は、思わず足を止めてしまう美しさだ。見渡す限りの雪原にモンスターたちが立ち並び、その間を縫うように登山道が続いている。




ここから先は、西吾妻山の山頂に向けて再び登りが始まる。
樹氷の間を縫うように進む登山者たちの姿は、白一色の世界によく映える。なかでも赤いウェアは雪原の中でひときわ目を引き、冬山ならではの鮮やかなアクセントになっていた。
西吾妻山の樹氷は「リトルモンスター」とも呼ばれるが、実際に目の前に立つと、その呼び名から想像する以上の迫力がある。人の背丈を大きく超えるものも多く、雪に覆われた巨大な姿が行く手を囲む。
時折、強い風が吹きつけて雪が舞い上がり、視界が白くかすむこともある。週末につけられたトレースが残っていたため、先行する登山者の後を追いながら、一歩ずつ山頂へと近づいていった。
美しい景色に見とれがちだが、天候が急変しやすい雪原では、風や視界の変化にも気を配りながら進みたい。
激しい暴風吹き荒れる、西吾妻山頂


西吾妻山の山頂付近に到着したのは、正午ころ。山形県側の天元台から登ってきた登山者たちとも合流し、山頂は賑わいを見せていた。
豪雪地帯だけあって、山頂標識はすっかり雪の下。山頂付近には赤いテープを巻いた木の枝が立っており、おおよその位置を示している。日本百名山のひとつに登頂した証として、山頂標識と記念撮影を楽しみにしている人には少し残念な光景かもしれない。
標高2,035m。東吾妻山や吾妻小富士、一切経山など、いくつもの峰を連ねる吾妻連峰の最高峰だ。しかし、山頂で待っていたのは、登頂の余韻に浸る暇もないほどの猛烈な風だった。
吹き荒れる暴風に雪が舞い上がり、立ち止まっているのもつらい。穏やかな雪原をスノーシューで歩くイメージとは裏腹に、山頂付近では冬山の厳しさを容赦なく突きつけられる。
強風にさらされながら、ふと周囲の樹氷を思い返す。あの独特な形が生まれるまでには、こうした厳しい風雪が繰り返されているのだろう。樹氷の美しさを眺めるだけでなく、その背景にある自然の力を身をもって感じる時間でもあった。
とはいえ、ここでゆっくり過ごすのは難しい。山頂に到達したことを確かめると、登頂の感慨に浸る間もなく、早々にその場を後にした。

お腹も空いてきたので、ひとまず今日の宿泊先である西吾妻山避難小屋へ向かうことにする。
山形県側の吾妻神社方面へ足を延ばすルートもあるが、今回は小屋泊なので帰りの時間に追われることもない。無理に行程を詰め込まず、そちらは次に訪れるときの楽しみに取っておくことにした。
山頂付近からは、吾妻神社方面へと続く雪景色を見渡せる。遠くには冠雪した朝日連峰が横たわり、その右手には山形を代表する名峰、月山と思われる山影も見える。眼下には雪に覆われた米沢の市街地が広がり、東北らしい冬の景色がどこまでも続いていた。

避難小屋へと近づくにつれて、景色はさらに開けていく。真っ白でなだらかな朝日連峰を背景に、広大な樹氷原が広がる。
背の低い樹氷たちは、雪をまとって丸みを帯びた姿が愛らしい。まさにリトルモンスターと呼ぶにふさわしい光景だ。その広大な雪原の中に、ぽつんと一軒家のように佇む避難小屋が見えてきた。


小屋の周辺は、想像していた以上に広々とした雪原になっている。トレースをたどって歩くこともできるが、誰の足跡もない新雪に自分の足跡を刻んでいくのも、この山の楽しみのひとつ。
近くで眺める樹氷は、ひとつひとつ大きさも太さも異なり、人のような形や、だるまのような形、動物を思わせるものまでさまざまだ。自然がつくり出した不思議な造形を見比べながら、雪原を自由に歩き回る時間は格別だった。

ただし、雪原歩きには注意したい場所もある。樹氷の根元にできる「ツリーホール」だ。幹の周囲は雪が深く積もらず、ぽっかりと窪みになっていることがある。
見た目では雪に覆われて分かりにくい場合もあり、近づきすぎると足を取られ、深くはまり込んでしまう危険がある。特に人目につかない場所で身動きが取れなくなれば、重大な事故につながりかねない。
自由に歩き回れる広大な樹氷原だからこそ、足元への注意は欠かせない。




樹氷原の中に建つ西吾妻山避難小屋に到着した。
先端の丸い三角屋根を持つ二階建ての建物で、白一色の雪原では赤茶色の屋根がひときわ目を引く。周囲に目立った建物がないこの場所では、悪天候の際に身を守るための大切な拠点でもある。
小屋の一階部分は除雪されて露出していたものの、扉は開かなかったため、はしごを使って二階から入ることに。窓から差し込む光はわずかで、室内は薄暗い。
日が暮れてからの行動も考えると、ヘッドライトは欠かせない装備だ。



明るいうちの樹氷歩きを存分に楽しんだところで昼食にする。まずは小屋の外で、きれいな雪をビニール袋に集めてクッカーへ。バーナーでゆっくり溶かし、調理に使う水を確保する。雪山では、こうして水をつくるところから食事の準備が始まる。
メニューはショートパスタにレトルトのミートソースを絡めたシンプルなもの。街で食べるなら簡単な食事でも、雪山で身体を動かしたあとには立派なご馳走だ。
翌日はバレンタインデーということで、妻が用意してくれた少し贅沢なチョコレートもデザートに。トレールチャイを淹れて、束の間のカフェタイムを楽しんだ。

この日の宿泊者は、埼玉から訪れたご夫婦と自分の3人だけ。こじんまりとした小屋だが、ゆったりと荷物を広げ、寝床の準備に取りかかる。
寝袋は、マイナス10℃ほどの環境を想定し、mont-bellダウンハガー800ハーフレングス #1を選んだ。上半身は厚手のダウンパーカで補うことで、寝具の重量を抑える工夫もしている。
昨夜は兵庫から福島まで、ほとんど夜通し車を走らせてきた。さすがに疲れがたまっていたようで、ここにきて強烈な眠気が襲ってくる。
夕方から夜にかけては、この山行で楽しみにしていた撮影が待っている。いったん身体を休め、再び雪原へ出る時間に備えることにした。
避難小屋で過ごす、空と樹氷が彩る冬の夜



仮眠を終えて外に出たのは16時過ぎ。すでにリフトの最終運行時刻は過ぎていた。
避難小屋では、ご一緒になったご夫婦が談笑している。夕暮れに少しだけ外へ出てみるという二人に見送られる。雪原を見渡してみると、そこには誰もいなかった。
広大な雪原に立つのは自分ひとり。日が傾き始めても、頭上にはまだ青空が広がっている。けれど、樹氷の足元には少しずつ長い影が伸び、真っ白だった雪景色のコントラストも、ゆっくりと薄れていく。

斜面の向こうに立つ樹氷に太陽が重なると、雪原には長い影が幾重にも伸びていった。
蔵王のスノーモンスターに比べれば小ぶりなリトルモンスターも、こうして影をまとえば、まるで巨人のような存在感を放つ。

足元に目を向けると、雪原のあちこちにシュカブラが刻まれている。強い風が雪面を削り、風紋となって残したものだ。
夕方になっても暴風は収まらない。けれど、その風が長い時間をかけて大地に刻んできた模様は、思わず見入ってしまうほど美しかった。

やがて、雪原を吹き抜ける風がさらに激しさを増す。地吹雪が巻き上がり、白い大地はまるで荒れ狂う海のように波打ち始めた。
すぐ近くにあるはずの避難小屋さえ、舞い上がる雪に飲み込まれて見えなくなる。それでも、薄い雲を通して届く太陽の光が、雪原をいっそう輝かせていた。
視界を埋め尽くす白い雪と、そこに差し込むシャンパンゴールドの光。自然の中では見慣れない色彩が目の前に広がり、見ているはずの景色から、少しずつ現実感が失われていく。

夕暮れのオレンジが目立ち始めるころ、樹氷たちはひときわ強い存在感を放つようになった。舞い上がる雪の向こうに、黒々としたシルエットが浮かび上がる。
枝葉にまとった雪が不思議な形をつくり、今にも動き出しそうな異界の生物を思わせる。昼間は愛らしくも見えたリトルモンスターが、光の向きひとつで、どこか不気味な姿へと変わっていく。


時折、風が弱まる瞬間がある。そのわずかな静けさの中で、削り取られた雪面に夕日が反射し、鋭い陰影を浮かび上がらせた。かと思えば、再び雪の乱舞が目の前を横切っていく。
何千回、何万回と繰り返されてきた風と雪の営み。その積み重ねが、この奇跡のような景観をつくり上げている。


空の色も、刻一刻と変わっていった。水色だった空は淡いピンクに染まり、やがてパープルピンクへ。
雪原を見渡すと、方角によって空の色が微妙に異なっている。同じ時間、同じ場所で見ている景色とは思えないほど、その表情は豊かだった。



太陽が薄雲の向こうに隠れ、夕焼けのオレンジが濃くなっていく。雪原は次第に暗くなり、樹氷たちは最後まで舞い続ける雪の中に浮かび上がった。
そして、日没のころ。空には、地平線に沿って鮮やかなオレンジ色の帯が現れた。その下には、暗い雪原に立つ樹氷のシルエット。遠くには、鋭い山容を持つ磐梯山が浮かび上がっている。
荒々しい雪原と穏やかな夕焼け、そして静かに存在感を放つ山の姿。すべてが重なり合う光景に、ただシャッターを切り続けた。


日が沈んでも、空はすぐには暗くならない。
マジックアワーを迎えた空、その色彩を背に樹氷たちが並んでいる。地平線のオレンジの帯を挟み、まるで背比べでもしているかのような姿が印象的だった。
西側ではすでに逆光となり、暗い影に沈んだ樹氷もある。一方で、方角を変えれば、日没後の淡い光を受けて、まだ白さを保っているものもあった。


そして、空は薄紫色へと変わっていく。写真を加工したと疑われてもおかしくないほど、非現実的な色彩だった。目の前にある景色なのに、この色を正確に言い表す言葉が見つからない。
あれほど吹き荒れていた風が、いつの間にかぴたりと止んでいた。さっきまで雪原を覆い尽くしていた風と雪の音が消え、あたりは静寂に包まれる。
目の前に広がる景色を前に、ただ立ち尽くすしかなかった。

やがて、濃紺の空に三日月が浮かび上がった。地平線には、最後の光がまだ淡く残っている。その光を背に、樹氷たちの頭が雪原から突き出していた。



夕暮れの名残を見届け、避難小屋へ戻るころには、あたりはすっかり夜の気配に包まれていた。
小屋の扉を開けても、そのすぐ向こうには、まだマジックアワーの空とリトルモンスターたちが広がっている。扉ひとつ隔てた先に、こんな絶景がある。
そのそばで一夜を過ごせることが、なんとも贅沢に思えた。ランタンのかすかな灯りに照らされた寝袋や荷物を整え、しばらく休むことにした。

日付が変わる少し前、三脚を担いで再び暗闇の樹氷原へと出かける。空には雲ひとつなく、無数の星々が輝いていた。


雪原に立つ樹氷の向こうには、思いがけず、麓の街明かりが淡くにじんでいる。標高の高い場所でありながら、周囲を遮るもののないなだらかな雪原だからこそ、遠くの光まで届いてくるのだろう。
昼間は、こちらを向いて立っているように見えたリトルモンスターたち。夜空の下では、まるで一緒に星を見上げているかのようだった。
青空の下の樹氷から始まり、暴風がつくり出す雪原、刻々と色を変える夕空、そして満天の星。これほど短い時間の中で、これほど多くの絶景に出会った記憶は、これまでの写真人生を振り返ってもほとんどない。
この日、この時間に、ここにいられたこと。それ自体が幸運だったと思う。そして、この時間を過ごすために送り出してくれた家族にも、感謝したい。
実はこの日の撮影は、長年連れ添ってきた相棒、Nikon Dfでの最後の撮影でもあった。この山行を最後に、ミラーレス一眼へ移行しようと決めていた。
数え切れない景色をともに写してきた愛機との別れ。その最後の舞台が、これほどまでに特別な一日になったことも、きっと忘れないだろう。
視界ほぼゼロ、ホワイトアウトの中を下山する

翌朝は、朝日に照らされて輝く樹氷を期待して早起きした。しかし、避難小屋の扉を開けて目に飛び込んできたのは、昨日とはまるで違う真っ白な世界だった。
雪と雲に覆われた樹氷原は、どこまでも続くように見える一方で、その先に何があるのかさえわからない。
日の出を迎えてもしばらくは、天候が回復することを期待して小屋で待ってみた。けれど、景色が好転する気配はない。せっかくここまで来たのだから、朝の光に輝く樹氷を見てみたい。
そんな思いを振り切るように、後ろ髪を引かれながらも出発することにした。昨日はあれほど美しい景色に囲まれていた雪原が、今日は一転して、進む先さえ見通せない場所になっていた。



歩き始めると、数メートル先の景色さえ見えない。周囲の樹氷も、地形の起伏も、遠くの山並みも、すべてが雪と雲の中に溶け込んでいる。
視界を失うホワイトアウト。昨日、自分の足で歩いたはずの道なのに、目の前に広がる景色には見覚えがない。どこまで進めば次の目印が現れるのかもわからず、一歩進むごとに不安が募っていく。
頼りになったのは、わずかに見える木々と、前日に歩いたルートのGPSログだった。西大巓へ向かう登りでは、幸いにも完全な樹氷になっていない木々が多く、枝や幹の露出した部分がかすかな目印になった。
周囲の景色からルートを読み取ることは難しくても、目の前の木をひとつずつ確かめながら、慎重に歩みを進めていく。
前日に記録したGPSログをなぞるように進めたことも、大きな助けになった。視界が利かない状況では、知っているはずの場所でさえ、まったく違う場所のように感じられる。現在位置を確かめながら、一歩ずつ下山を続けた。
やがて西大巓を越え、グランデコのゲレンデに向かって樹林帯へ入るころ、ようやく視界が回復し始めた。周囲の様子が少しずつわかるようになり、張り詰めていた気持ちも、ようやく緩んでいく。
そんなとき、登山道沿いに積もった雪の塊に、誰かが刻んだ似顔絵が目に入った。
昨日から続いていた緊張と、先ほどまでの恐怖。その中で出会った、なんともいえないユーモラスな表情に、思わず気が抜けた。見慣れた景色が戻ってきたことを、こんな小さなものから実感するとは思わなかった。


クワッドリフトの乗り場まで戻ってきたころには、ひとまず厳しい区間を抜けたという安堵感があった。
ゲレンデから山を見上げると、磐梯山の山頂付近には分厚い雲がかかっている。山の天気は、昨日の快晴が嘘のように変わってしまう。その後はゴンドラに乗り、山麓駅へと戻った。
初日は、樹氷の森を歩き、夕景に染まる雪原を眺め、満天の星空の下で過ごした。振り返れば、次々と現れる絶景に心を奪われ続けた一日だった。
それに比べると、二日目はあっけないほど短く感じられる。歩いた道は昨日と同じ。それなのに、ホワイトアウトに覆われた雪山は、まるで別の山のようだった。
朝日に輝く樹氷を見ることは叶わなかったけれど、それはいつかまた訪れるときの楽しみに取っておこう。昨日の景色を思い返しながら、ゴンドラの窓越しに遠ざかっていく山を眺めた。
西吾妻山の樹氷原を歩いて

青空に映える樹氷、夕暮れに染まる雪原、そして静かな夜空を埋め尽くす星々。西吾妻山で過ごした初日は、短い時間の中に、忘れがたい景色がいくつも詰まっていた。
長年、さまざまな風景を撮り続けてきたけれど、この日の景色はその中でも特別なものになった。奇しくも、愛用してきたNikon Dfでの最後の撮影となった山行。最後にこれほど印象深い景色を残せたことを、うれしく思う。
翌朝はホワイトアウトに見舞われ、前日とはまるで違う山の表情に向き合うことになった。朝日に輝く樹氷を見られなかった心残りはあるけれど、あの美しい雪原も、視界を失いながら慎重に歩いた時間も、冬の西吾妻山を訪れたからこそ出会えた体験だ。
いつかまたこの山を訪れる機会があれば、今度こそ朝の光に染まる樹氷原を歩いてみたい。

