
この物語は、家族三人で北海道を旅した記録である。
生まれたばかりの息子と、はじめての長い車旅。準備から出発、そして道中での出来事まで、時間の流れに沿って綴っていく連載だ。
特別な冒険譚ではない。けれど、あのとき確かに感じていた迷いや高揚、そして家族で過ごした日々の空気を、できるだけそのまま残しておきたいと思う。
この旅が動き出したきっかけ

この旅の話をする前に、少しだけ昔の話をさせてほしい。
ぼくは20代後半に仕事を辞めて、2年ほどかけて自転車で日本一周をした。キャンプ場や道の駅でテントを張って、野営しながら日本各地を巡った。いわゆる元、旅人というやつだ。
自転車旅が終わって大阪から北海道に移住、なけなしのお金で人生初めての車を買った。アクセルを踏めばどこまでも進み、荷室に横たわればいつだって眠れる。
さながら動く宿を手に入れたような感覚だ。
それからは仕事の休みが取れるたびに、カメラ片手に道内を巡った。当時カメラマンを目指していたこともあり、早朝・深夜の時間帯の撮影が当たり前の風景写真との相性も抜群だった。

北海道に住んでいた頃に出会った彼女が、のちの妻となる人だった。
妻はいい意味で少し頭のネジが飛んでて、車中泊に全く抵抗がない。(もしかしたらぼくだけがそう思ってるかもしれないけど…)
ぼくたちの旅はその日の夜に「行っちゃう?」という、軽い一言からよく始まった。夜通し車を走らせて疲れたら適当な場所で眠る、という無計画な旅ばかりだった。
たった数年の間に気づけば、ほとんどの都道府県に行ってたと思う。
はじめは写真撮影のための手段だった車中泊は、ふたりで共有することで新たな旅のスタイルに変化していったように思う。
それから夫婦になっても変わらず、ぼくらは自由にふらふらと旅をしていた。
そして、月日が流れ——

Hello, World。
待望の第一子が、この世界にやってきた。
当時はコロナ禍で立ち会いもできず、予定日より一ヶ月も早い誕生だった。黄疸も出て退院は少し延びたけれど、無事に元気な男の子が我が家に来てくれた。
初めて胸に抱いたときの重みとぬくもりは、きっと一生忘れない。
あの日、ぼくは父親になった。


生まれた時はあんなに小さかったのに、気づけばすくすくと成長していた。
四ヶ月検診では体重8kgオーバーをマークし、会場をどよめかせていたらしい。そばで息子の成長を見守ることができて本当に幸せだった。
これまで日常に旅があることが普通だったけど、息子が生まれて時間の流れが変わった。外へ出かけることがなくなったし、何をするにしても息子が中心に動くようになった。

自分が親として子に、何をしてあげるべきだろう。
全ての親が一度は考えることだろう。愛情を注ぐことはもちろん、自由な将来の選択ができる経済力や、安心して暮らせる生活環境など、こどもが健やかに育つために必要なものは、数えだしたらキリがない。
ぼくには手本になるような存在もいなかったし、何がこの子にとっての幸せなのか、正直まだよくわからない。
答えを持っているのは、きっと将来の本人だけだ。結局は親のエゴかもしれない。旅に出たとしても、幼い息子の記憶には残らないだろう。
でも人間はそもそもが、すぐ忘れてしまう生き物だと思ってる。大人になっても数年前のことが、頭の奥底に隠れてしまう。
そんな記憶を回帰させるのが、写真の良い所だと思っている。その時の情景が記録として残るし、撮影者の感情がその一枚には宿るからだ。
息子と旅をして、たくさんの写真を残したい。それがぼくにとっての愛情表現だ。いつか成長した息子がその写真を見て、感じ取ったものが親として残してあげれたものだと思う。
答え合わせはいつになるかわからないけど、こうしてぼくたち家族は旅に出ることを決めた。
息子と外の世界に触れる日々


とは言え、いきなり長旅に出かけるわけにもいかない。まずは育児初期にいろいろと試して、おでかけに必要になるベビーカー、チャイルドシートを購入した。
生まれる前から準備する人もいると思うが、実際に乗せた方が間違いがないので、生まれてから選んでよかったと思う。長時間移動でも極力負担が少ないよう、クッション性や角度調整機能を重視した。
暖かな空気を纏う花見の季節

ぼくが働いている職場は全国転勤がある会社で、入社後しばらくは毎年のように引越しがあった。そのため、桜の季節は慌ただしく過ぎてゆき、ここ数年は落ち着いて花見をした記憶がなかった。
実は息子が生まれたことにより、まるまる一年の育休を取っている。そのおかげで人混みを避けた平日に、ちょうど見頃を迎えた桜をゆっくりと鑑賞することが出来た。



家のすぐ近くの桜並木の散歩から始まり、当時住んでいた兵庫県内の桜の名所を巡った。淡いピンク色の花びらが青空によく映えて、思い出に残る写真が多く撮れた。

この頃から意識していたのは、出先での育児の効率化だ。
育児でやることは自宅と変わらないはずだが、出先だと意外と必要なものが、パッと手元に用意できてない事に気づく。
外出を繰り返すたびに気づきがあり、少しずつ買い足して試していった。おむつとお尻拭きをコンパクトにひとまとめ、かばんのすぐ取り出せる位置に配置。
対応が遅れるとうんちが外に漏れ出てしまい、出先だと致命傷になりかねない。特に運転中は気づいた時点で即停車し、後部座席で交換することも多くあった。

ミルク作りは哺乳瓶の洗浄、お湯の調達が課題。自宅だとキッチンで必要なものが全て揃うが、出先で行うとなると、事前準備がとても重要なことに気づいた。
自宅で沸かしたお湯を保温ボトルに入れておき、哺乳瓶用インナーバックに粉ミルクを準備。これだと必要に応じてお湯を注ぐだけですぐ作れるし、洗浄不要なので後片付けも手間にならない。
この時期のトライ&エラーは、旅の基礎になっていると言ってもいい。
暑さに負けじと満開のひまわり畑へ


毎年撮影した写真を振り返るんだけど、夏には必ずひまわり畑の撮影をしている。四季の移り変わりを感じるのが好きで、ひまわりは夏の訪れを感じさせてくれる花だ。
真夏は赤ちゃんと外出するには快適とは言いにくく、梅雨明けからは家族のおでかけは自然と減っていた。でも息子と過ごせる初めての夏が、このまま終わるなんてもったいない。
旅の出発を間近に控えた頃に、満開のひまわり畑に行ってきた。

咲き誇るひまわりと息子。この夏の記憶を鮮やかにしてくれた一枚だ。
息子はこの頃には生後半年を過ぎて、少しずつ視界に入るものを目で追うように。表情もだいぶ柔らかくなり、よく笑うようになった。
この子にもっと外の世界に触れさせたい、より一層そう思わせてくれた。


いろんなものに触れてほしいとは思いつつ、体調を崩してしまったら本末転倒だ。暑さ対策はかなり意識した。ベビー麦茶でこまめに水分補給して、ポータブル扇風機で常に風を当てた。
旅では意図せず気温が上がってしまうこともある。気温が高い時間帯を避ける事が一番だけど、事前に対策グッズを用意しておくことで、ある程度対応できるようにしておく事が重要だ。

その中でも特に効果があったのは、モンベルの日傘だ。
日差しを反射するコーティングがされていて、日陰がないひまわり畑では効果抜群だ。あるとないとでは、明らかに体感温度が違う。
小さく折りたたみできるので、荷物にもなりにくい。登山が趣味なのでアウトドア用品は日常的によく使っていて、旅と相性が良いと再確認できた。
家ではない場所で迎えた朝

ぼくにとって旅をするという事は、非日常を積み重ねることを指す。
まずは普段の生活圏から飛び出して、新たな体験をする事がその第一歩だ。過ごしやすい春先に限定して、少し遠出をしながら車中泊やキャンプを体験させた。
普段から使い慣れた布団を車に持ち込んで、家族三人で川の字で眠った。やってることは普段と変わりないが、どこで朝を迎えるかで感じ方は大きく変わってくる。
紀伊半島巡りと橋杭岩での車中泊

日帰りのおでかけを重ねて、外に出ることにもだいぶ慣れてきた。暖かく過ごしやすくなって来たので、少し足を伸ばして本州最南端まで行くことにした。
紀伊半島は関西圏からアクセスが良く、内陸部と海岸沿いどちらにも見所が多くある。
この日は海沿いのルートをドライブしつつ、「千畳敷」や「三段壁」といった奇岩スポットを巡りながら進んだ。


夕暮れ前には本州最南端に到着した。
日本の端っこには、いつも不思議な高揚感がある。特別な何かがあるわけではないのに、ただそこに立つだけで心がほどける。
都会の喧騒を忘れるには、十分すぎる場所だった。
潮岬には広大な敷地の芝生が広がり、展望の良い観光タワーもある。美しい白亜の潮岬灯台や、美しい夕陽など、いつかじっくりと過ごしてみたい場所のひとつ。

そしてこの日の一大イベント、息子はじめての銭湯デビュー。
妻が一緒に入ってくれたんだけど、家とは勝手が違ってかなり大変だったらしい。よく考えれば普段は夫婦どちらかが息子を洗い終わったら、相方にパスして体を拭いたり着替えせていた。
それが物理的に夫婦分断されるので、片方に全ての作業がのしかかる。これは割と早い段階で経験できてよかったと思ってて、事前に持ち込むべき道具の選定にもつながってくる。
それと入浴施設の設備も下調べも大切だと気付いた。特にベビーベッドの有無は重要で、男性側の脱衣所にだけない事も多かったりする。
あと畳の休憩室があると、一息つけてとても精神的に楽だ。



記念すべきはじめての車中泊は、「道の駅 橋杭岩」で一夜を過ごした。バックドアを開ければすぐ目の前には海が広がり、大小たくさんの奇岩が浮かぶ絶景スポットだ。
ぼくが自転車旅をした時も、出発当初には同じルートを辿っている。
寝袋を落としたり財布盗まれたり、色々と苦い思いでも残る地だけど、ぼくの旅の原点を思い出させてくれる大好きな場所だ。
天気にも恵まれて美しい朝日を浴びながら、気持ちの良い朝を迎える事が出来た。こんな日々を家族とともに積み重ねたい、やっぱり旅に出たい。
そう強く思えた瞬間だった。

ミルクを作るのに必要なお湯は、保温ボトルに入れていても日を跨ぐと温くなる。
連日ホテル泊ならポットから注ぐだけで良いが、車中泊やキャンプ場がメインなら、湯沸かしできる環境が必要だ。そんな時にアウトドア用のガスバーナーが役に立つ。
その中でもJETBOILフラッシュは熱効率が良く、車中泊との相性は抜群だ。湯沸かしに特化していて、500mlの水を100秒程度で沸かす事ができる。
旅する日々を繋いでいく上で、必要となる道具がまた見つかった。ある程度想像して必要なものはリストアップしているが、事前に使ってみると有用性を直に感じられた。
快適さを持ち出したオートキャンプ

春が過ぎて梅雨入り前には、家族でキャンプもしてみた。
——と言ってもテントは張らずに、オートキャンプ場に車を乗り入れして、カーサイドタープを連結した簡易的なスタイル。そして、サイトには家電をずらりと並べた異様な光景が広がった。
大容量・高出力のポータブル電源を用い、フィールドでの家電持ち込みの検証の意味合いが強かった。頭の中で考えるだけではわからないことが多い。
実際に使ってみて初めて、本当に必要かどうかが見えてくる。
家庭用扇風機、電動ポット、電子レンジ、主要な家電製品を検証してみた。消費電力の大きさや、限られた車内空間で占める体積などを考慮し、持ち出す価値があるかをイメージする。


試した中でも圧倒的に電子レンジの汎用性が優れる事が分かった。
まず哺乳瓶の消毒がとにかく楽になるのが魅力。自宅ではつけ置きタイプも併用しているが、電子レンジで行う方が手軽で乾燥時間も短いという利点ある。
あと日本はレトルト食品がとにかく充実していて、お店さながらの味もたくさんある。レンチンで簡易的な食事がいつでもできるのも長旅では心強い。
もちろん旅先でのご当地グルメは楽しみたい。でもそればかりでは費用が嵩むので、少しずつ節約も意識したいところだ。
扇風機は季節は進むにつれて不要になるので、車内に持ち込んでも実用期間が短い。電動ポットは沸騰だけでなく常時保温するとさすがに電力消費が大きすぎる。
使用する家電製品は絞り、電子レンジを最大限活用する方向で狙いは定まった。
愛車ハイエースを長旅の相棒に

さまざまな体験をもとに、旅に必要なものが定まってきた。ここからようやく長旅仕様に、相棒のハイエースをカスタマイズしていくことになる。
内装を部屋のようにおしゃれにした、衣・食・住が車内で完結するキャンピングカーに憧れはある。でもうちのハイエースは、ナローボディ・ノーマルルーフのバンタイプだ。
家族で快適に過ごすには、室内空間が圧倒的に足りていない。
ぼくは「動く家」が欲しいという発想はあまりない。家のように過ごしたいなら家にいればいいし、旅を感じたいなら多少の不便は受け入れられる。
荷物と寝床を運んでくれれば、それで十分だと思っている。
カスタマイズの方向性は、ずばり機能性の重視。できるだけノーマル状態を維持できるよう、車両への穴あけなどの加工はせず、必要な機能だけを付け足していくという感じになった。
車内の天井収納&サイドバー

旅に出るとなると、日常のほとんどを車に積み込むことになる。
着替え、食料、洗面道具、洗濯用品、寝具。普段は意識しない「暮らしの道具」が、改めてその多さを主張してくる。
ハイエースは荷室が広い。でも今回はそこにベッドを組む予定だったから、大半の荷物は床下収納へ入れることになる。つまり、すぐには取り出せない。
これまで何台も車中泊仕様にしてきて思うのは、「ちょい置きできる場所」のありがたさ。
移動中に羽織る上着、夜に使うシェード、さっと広げたい寝袋。毎回床下を開けるのは、地味にストレスになる。
そこでまず取りかかったのが、天井収納づくりだった。



主な材料はG-funのブラックアルミフレーム。あらかじめ寸法を測って、注文時にカットしてもらったので、あとは組み上げるだけ。
アシストグリップを外し、内張りをめくってクリップナットを仕込む。連結コネクタで固定し、引っ掛け金具で長方形に組み上げる。
最後に100均のワイヤーネットを結束バンドで固定して完成。
寝袋やマットなど、軽くて厚みのないものを中心に収納。上着やシェードも気軽にポンポン放り込めるので、思っていた以上に快適だ。
キャリア取付のソーラーパネル

大容量のポータブル電源があるとはいえ、電子レンジのような出力の高い家電を使えば、あっという間に電力は減っていく。
二ヶ月という長旅を前に、「電気を買う旅」ではなく「電気をつくる旅」にしたいと思った。そこで決めたのが、ソーラーパネルの導入だった。
選んだのはRENOGY製の175Wを2枚。薄型のフレキシブルタイプも検討したけれど、車体に直接貼り付けることに少し抵抗があった。
最終的には既製品のキャリアをベースにできる、固定タイプを選択。
取り付け前には発電テストも実施。晴天時には最大約250Wを記録した。容量1500Wのポータブル電源なら、単純計算で約5時間ほどで満充電できることになる。
よほど悪天候が続かない限り、長期旅でも電力面の不安は少ない。数字を確認できたことで、ようやく現実味が帯びてきた。
実用性と安心感、その両方を手に入れた瞬間だった。



設計から加工、取り付けまで全面的に協力してくれたのは、自転車日本一周の頃からお世話になっているHさん。機械設計のお仕事をされていて、ご実家は鉄工所。
穴あけ加工や配線作業も驚くほど手際がいい。既製品のキャリアバーに穴あけ加工を施し、裏側からアルミステーと特注パーツで支える構造に。
そのおかげで高さを最低限に抑えられ、見た目もすっきりと仕上がった。車両本体に直接固定していないため、車検時に取り外しが不要なのも大きなメリット。
特注した展開式ルーフラック


積載力をもう一段引き上げる仕組みを、もうひとつ考えていた。ここでも再び、Hさんに全面協力してもらうことになる。
ソーラーパネルと同様、既製品のルーフキャリアのバーに穴あけ加工を施し、裏側からアルミフレームのプレートで支える構造に。車体本体には直接固定せず、高さも極力抑える。見た目はあくまでスマートに。
既製品のルーフボックスも検討したけれど、今回は“固定された容量”ではなく、“状況に応じて変えられる余白”がほしかった。
そこで採用したのが、浅型のコンテナボックス。できるだけ高さを出さず、走行時の風切り音や見た目の圧迫感を抑えている。


そして、このルーフラックのいちばん面白いところは、展開式であること。停車時には両側に広げることができ、面積を拡張できる構造になっている。
つまり、ただの積載スペースでは終わらない。上に登って横になれば、車の屋根で一夜を過ごすこともできる。妻と息子は車内で眠るのが前提だけれど、ぼくには「気分が乗ったら外で眠りたい」という願望がある。
旅先の夜風を感じながら、そのまま眠れたらきっと最高だ。
この機能をどれだけ使うかは正直わからない。でも設計段階で「やりたいこと」は全部盛り込んでおきたかった。
アルミフレームの自作ベッド


毎日の夜を快適に過ごすために、もっとも重要なのが車中泊ベッド。いよいよ、この旅の土台づくりに取りかかった。
これまでの車ではイレクターパイプを使って組んできたけれど、今回はMISUMIのアルミフレームを選択。コネクタで連結し、より強度と拡張性を意識した設計にした。
ハイエースの荷室で厄介なのがタイヤハウスの出っ張り。できるだけ構造を複雑にしたくなかったので、タイヤハウス間を埋めるように、シンプルな長方形で設計した。
本当はタイヤハウスの上まで拡張したかった。けれど設計の詰めが甘く、出発までに間に合わないと判断。一旦、両サイドは空けたままにしておくことにした。


天板の木材はマルトクショップでオーダー。アルミフレームにぴったり収まるよう30mm厚にし、開閉式の取手と蝶番を取り付けて、上から床下収納へアクセスできるようにした。
——が、組み上げてすぐに失敗に気づく。
フレームにぴったり埋め込む設計にしたせいで、隙間がなさすぎた。木材の重みも相まって開閉にはかなり力が必要で、取手が手に食い込むほど痛い。
閉めるときには指を挟みそうになる。完成した瞬間に「やってしまった」と思った。でも作り直す費用も時間もない。出発はもう目前だった。

迷った末、両サイドをアルミフレームで立ち上げ、長物の収納スペースへ変更。キャリーワゴンや赤ちゃん用プレイマットなど、かさばるけれどすぐ取り出したいものを置く場所として活用することにした。
その代わり、就寝スペースはかなりタイトになった。家族三人で眠るには、正直きつい。
さらにこのベッドを土台にして棚を拡張。電子レンジやポータブル電源を設置し、走行中に脱落しないよう金具とボルトでしっかり固定した。
完璧とは言えない。むしろ反省点だらけだ。それでも、暮らしに必要な機能をぎゅっと濃縮した空間にはなった。
この少し不器用なベッドが、これから二ヶ月間の夜を支えてくれる。
出発前、期待と不安のあいだで

こうして準備はひと通り整い、あとは8月下旬の出発を待つのみとなった。どれだけ入念に準備をしたつもりでも、きっと走り出せば足りないものに気づくはずだ。
その都度買い足したり、直したりしながら進めばいい。完璧じゃなくていいと、自分に言い聞かせる。
それでも出発が近づくにつれ、本当にこれだけ長い旅に出て大丈夫だろうかという不安が、ふとした瞬間に顔を出す。
まだ小さな息子。慣れない車中泊生活。仕事のこと、お金のこと、体調のこと。考え出せばきりがない。けれど、それ以上に大きかったのは——
息子とともに北海道を旅してみたいという気持ちだった。
広い空の下で過ごす時間。家族三人だけで積み重ねる日々。きっと、今しかできない旅になる。期待と不安のあいだで揺れながらも、それでも前へ進みたいと思えた。
こうして僕たちは、北海道へと旅立つ。

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