前編では二日かけて海沿いを巡り、どこまでも続く青い空と海に心を奪われた。
後半は視点を変え、山々が織りなす雄大な景色や、島に息づく歴史や文化を辿る旅へ。リトルカブを走らせるたびに、新しい佐渡島の一面と出会っていく。
海だけでは終わらない。この島にはまだまだ知らなかった魅力が待っていた。
三日目|曇天の松ヶ崎から佐渡中央部へ

松ヶ崎ヒストリーパークにて迎えた、佐渡島三日目の朝。まだ時刻は4時過ぎで、日の出直前の時間に勝手に目が醒めた。
佐渡島前半の絶景続きに、完全に脳が覚醒してしまっている。テントの外に出てみると、空は不気味で怪しげな色をしていた。

水平線からうっすらと浮かび上がる、朧げな太陽。まるで蜃気楼のような、今にも消えてしまいそうにぼんやりとした姿。
すぐ上には分厚い雲が待ち構えて、たちまち灰色に飲み込まれていった。朝焼けを期待していたが、この日は曇天からのスタートだ。
人影のない松ヶ崎の街並みを歩く

キャンプ場のすぐそばには、松ヶ崎の集落がある。かつては海上交通の拠点として、人や物が行き交い、島の暮らしを支えてきた場所のひとつだ。
古い木造家屋が残る街並みは、全体的に少し黒っぽく、落ち着いた色合いで統一されている。
歩いていても人影はほとんど見当たらず、時間だけが取り残されたような、不思議な静けさが漂っていた。

そんな静かな景色の中で、鮮やかなSUPだけが妙に目を引く。風情ある建物と近代的な遊び道具という組み合わせなのに、不思議と浮いて見えない。
しばらく街中を散策していたが、やがて小雨がぽつぽつと降ってきた。慌ててキャンプ場まで小走りで戻り、テントの中に潜り込む。
二度寝を決め込んで、9時ぐらいまでしっかりと眠る。テントの中には熱気が籠っていたので、暑さに耐えきれず外へ出ると、いつの間にか晴れ空が広がっていた。
そそくさと撤収して、すぐに移動開始。今日は佐渡の中心の気になる場所を巡る日。まずは観光拠点となる予定のキャンプ場を目指す。
野鳥のさえずりに包まれる湖畔の拠点

新穂ダムキャンプサイトへ到着。ここは朱鷺をはじめとした野鳥が集まる、静かなダム湖沿いにある無料キャンプ場。
両津港や中心街まで車で20分かからない、観光拠点として抜群の立地。それでいて料金は無料、予約・受付もいらないという素晴らしさ。
到着したら設営だけ済ませて、すぐに出発。まずはご飯を食べてお腹を満たすことに。
佐渡名物、ブリカツ丼で満たされる

この日のランチは、鮨 長三郎へ。新穂ダムからは車で10分かからないほど近く、開店直後だったのもありスムーズに入店。
いわゆる回らない寿司屋なんだけど、ランチメニューがそこまで高くない。なぜかラーメンの評判が良く、地元・観光客どちらからも人気のお店。

ぼくはブリカツ丼定食5枚、ご飯大盛りを注文。お値段は1,980円也。付け合わせには味噌汁とデザートの小皿が付いてくる。
佐渡を代表するご当地グルメで、正式名称は佐渡天然ブリカツ丼。ぶりや米粉など材料のほとんどが佐渡産で、認定の旗がお子様ランチのように突き刺さる。
ぶりの切り身はほどよく厚みがあり、揚げたてでサクサク。あご出汁の醤油だれと絡んで、めちゃくちゃご飯が進む味だった。
お腹も膨れて準備万端、ここから本格的に移動開始。当初はドンデン高原へ向かうつもりだったが、雨で出遅れたので予定を変更。
大佐渡スカイラインの激坂に苦しむ

まずは大佐渡スカイラインを上がり、白雲台を目指すことに。島の中央部である金井地区と、西海岸の相川地区を繋ぐ道路だ。
山岳ツーリングで展望を楽しみつつ、佐渡金山や北沢浮遊選鉱場など、相川周辺の観光地巡りへと自然に繋げられる。
序盤は軽快に進んでいくが、徐々に斜度が上がっていく。

中腹を過ぎるとヘアピンカーブが連続。えげつない斜度に加えて、路面にある滑り止め区間が、めちゃくちゃ走りづらい。
スカイラインなんて名前がつくので、全区間舗装路で走りやすいイメージを持っていたが、とんだ悪路である。

特に傾斜がキツい区間、勾配を示す標識はなんと16%…。うちのリトルカブだと一速まで落として、なんとか20km巡航が精一杯だった。
前々から長い登坂が続くと、巡航速度がかなり落ちるのは気になっていた。旅では荷物の積載も多いので、真剣にボアアップも視野に入れねば。
標高850m、白雲台からの爽快な眺め

ノロノロ運転でようやく、交流センター白雲台に到着。中は観光情報だけでなく、特産品が並び、軽食の提供もあった。
佐渡島の四季折々の写真が展示されていた。特に大佐渡石名天然杉の大型パネルは圧巻で、心惹かれるものがあった。


標高850mの展望デッキからは、180度の視界で佐渡島を一望できる。真野湾と両津湾どちらも眺められ、佐渡のくびれがはっきりと分かる。

駐車場からは妙見山の山頂付近にある、航空自衛隊のレーダーサイトが見える。
白雲台を目指す途中には、佐渡分屯基地の前を通過。迷彩服をまとった自衛隊員、戦車が突然視界に飛び込んできて驚いた。
佐渡市と佐渡分屯基地との取り決めにより、現在は自由に歩けるようになっているが、かつてはトレッキングの際に通行申請の提出が必要だったらしい。


大佐渡スカイラインを越えた先で、姿を現したガメラレーダー。怪獣ガメラの甲羅に似た見た目からそう呼ばれているらしい。
全国でもわずか4基しか配備されていない、希少な巨大警戒レーダー。航空機や弾道ミサイルの監視など、日本の空を見守る存在。
非常に高性能だが、1基あたり約180億円と価格もぶっ飛んでる。佐渡島の静かな景色の中に、想像以上のスケールが潜んでいた。
最高点からは基本は下るだけだが、もう一つ大事な寄り道。さらには予想外の美しい景色がぼくを待っていた。
静寂に佇む、乙和池リフレクション

大佐渡スカイラインの道沿いに、乙和池への分岐がある。実は金井方面から登って下ると、進行方向からはこの看板が見えず少し迷った。
未舗装の林道を600mほど進むと、小さな駐車スペースが見えてくる。そこからは徒歩で驚くほど簡単にアクセスできる。

乙和池の周辺は鬱蒼とした森に囲まれ、静寂に包まれていた。中央には日本最大級の高層湿原性浮島が佇んでいる。
池の主の大蛇に見初められて、入水した娘「乙和」の伝承もあいまって、神秘的な雰囲気を醸し出していた。


水面には周囲の木々と空がリフレクション。初夏の緑、空の青、木漏れ日の光、さまざまな要素が複雑に入り混じる。
ぐるりと一周するのに、5分とかからない小さな池だが、一歩進むたびに映り込む景色や、光の差し込む角度が変わって面白い。
乙和池を後にし、再び移動を開始。このまま金山まで一気に下るつもりだったのに、飛び込んできた景色に思わず声を上げた。

そこにはまさかのトビシマカンゾウの大群生が待っていた。派手な案内看板などはないが、この辺りは大平高原と呼ばれるらしい。
かつてはドライブインも営業されていたそうだが、現在は牧草地が広がるだけ。大野亀より標高が高いこともあり、こちらはちょうど見頃を迎えていた。
道路沿いにこれほどの群生が見られるのは、島の中でもおそらくここだけじゃないかな。リトルカブの後ろには、鮮やかな黄色が広がった。
海沿いに多く自生するトビシマカンゾウと、愛車を絡めるのは難しいと思っていたが、まさかのサプライズに心躍った。
黄金の記憶が眠る相川エリアを巡る
そしてここから佐渡を代表する観光地がひしめく相川へ入った。
地下へ続く坑道、佐渡金山の時間を歩く

2024年に世界遺産登録された、金を中心とする佐渡鉱山の遺産群。その中でも相川にある佐渡金山はもっとも代表的な場所。
ヨーロッパ等で機械化が進んだ時代にも、手作業による丁寧な採掘と高純度の金生産体制を維持し、独自の鉱山文化を形成した点が評価されたそう。


佐渡金山は正直、想像していた以上に見応えがあった。ゆっくり見て回ると、一時間ほどあっという間に過ぎてしまう。
坑内は10℃前後でひんやりしていて、外の暑さを忘れるほどだった。薄手の化繊ジャケットを羽織っていて正解だった。
コースは坑道内部を歩きながら、当時の採掘風景を順番に追っていく構成。坑夫たちの作業を再現した人形展示、手掘りの跡がそのまま残されている。
説明だけでは伝わりにくい作業の過酷さや、人力で山を掘り進めていた時代の空気感が、進んでいくうちに自然と伝わってくる。


道遊の割戸の迫力は想像以上だった。山頂を真っ二つに割ったような巨大な裂け目は、自然地形ではなく、金脈を追いかけて掘り進めてできた採掘跡。
そのスケール感は遠景だけでは伝わらず、遊歩道を奥まで歩いてみて初めて実感できた。特に印象に残ったのは、割戸の奥に広がる大きく口を開けた空洞部分。
人の手で少しずつ掘り進めた結果としてこの景色が生まれたと思うと、単なる遺構というより執念そのものを見ているようだった。
歴史的価値だけでなく、純粋に景観としても強く記憶に残る場所だった。
光差し込む、小さな拘置支所に立ち寄る

相川の街から山側に上って行くと、不意に現れる蔦に覆われた塀と古びた門。旧相川拘置支所は、個人的にはかなり印象に残った場所。
1954年から1972年まで、実際に使われていた拘置施設。全国的にも現存例が少ない木造拘置所らしく、歴史的背景を知らなくても十分面白い。



建物全体に時間が止まったような空気が漂っていて、鉄格子越しの光や静かな廊下、少し荒れた中庭まで含めて独特の雰囲気がある。
内部には独居房や面会室などが、当時の姿に近い形で残されている。人によっては、ちょっと怖いと感じるかもしれない。


天窓から差し込む光が、幻想的な雰囲気を演出している。観光地らしい派手さはないけれど、廃墟やレトロ建築が好きなら刺さるはず。
山肌に残る巨大遺構、浮遊選鉱場の記憶

巨大なコンクリートの構造物が山肌に残る、北沢浮遊選鉱場跡。
かつて「東洋一の浮遊選鉱場」と呼ばれた巨大施設の跡地。山肌に沿って広がるコンクリートの遺構は、その大きさに圧倒された。

役目を終えて長い時間が経った今は、無機質な構造物の隙間から草木が伸び、少しずつ自然へ還ろうとしているようにも見える。
その姿はどこかラピュタを連想させ、廃墟なのに不思議と荒々しさより美しさを感じた。

巨大な円形構造が印象的な、50mシックナー。鉱石の処理設備だったとは思えない姿で、どこか古代ローマのコロッセオを連想させる。
産業遺産でありながら無骨さは少なく、時間をかけて風景に溶け込んだその姿には、不思議な美しさがあった。
相川の遺構巡りを終えて、夕暮れが近づいてそわそわしてきた。夫婦岩と迷ったけど、初日のお気に入りだった春日崎へ。
ふたたび春日崎へ、石灯籠に夕陽灯る


近くの旅館でお風呂を済ませて、春日崎にある東屋で夕涼み。無性に甘いものが食べたくなり、佐渡牛乳を片手にお菓子タイム。
ああ、こういう何もしない時間ってほんと贅沢。ちょうど家族から着信があり、夕陽を待つ間しばしビデオ通話しながら談笑。

水平線にゆっくりと向かう夕陽、空は優しい水色に染まる。手前の崖からはトビシマカンゾウがひょっこりと顔を覗かせていた。

春日崎の先端に静かに立つ石灯籠。景観のために置かれたものかと思っていたが、調べてみると江戸時代初期に設置された歴史ある航路標識だった。
陽が傾くにつれて夕陽と重なり、石灯籠は静かなシルエットへ。ところどころ欠けた石肌には、海を見守り続けてきた歴史が刻まれていた。

拠点に戻る前に、ショッピングプラザ キングに立ち寄る。地元スーパーにはその土地ならではの食材が豊富にあり、ただ店内を眺めるだけでも楽しいから好きだ。
実は両津港に寄った時に事前にリサーチ済み。ここは佐渡産の新鮮な魚が豊富にあり、しかもかなり値段も安い。閉店間際に滑り込みで入店し、刺身の柵をギリギリゲット。

お店で温めておいたパウチご飯に、いなだとまぐろの中落ちを添えたお刺身定食。いなだと聞いてはじめはピンと来なかったけど、調べてみるとブリの幼魚らしい。
ナイフもまな板も忘れていたので、柵のまま雑にかぶりついて食べた。想像以上に口当たりが悪く、刺身はちゃんと切り身で食べるべき、と実感した夜だった。
でもいなだは脂乗りは控えめだけど、臭みも少なく食べやすかったし、マグロの中落ちも言うまでもなく美味かったなぁ。次はちゃんと切り身を買おうと心に誓った。
湖畔沿いの静かなイメージだったけど、夜はかえるの大合唱。自然溢れる感じでぼくは好きだけど。さほど騒音は気にしないタイプなので、疲れもあってか爆睡かましてた。
四日目|山へ海へ、後編怒涛の寄り道

そのかいもあってか、翌朝は驚くほど目覚めが良かった。四日目は佐渡で丸一日過ごせる実質的な最終日だ。心残りがないよう怒涛の寄り道がスタートする。
まずは素早く撤収作業を済ませ、新穂ダムキャンプサイトを後にする。両津のコンビニで補給を済ませてから、梅津からドンデン高原を目指すことに。
初夏のドンデン高原をのんびり歩く

ドンデン高原へと続く道もなかなかの激坂。大佐渡スカイラインほどではないけど斜度もきつく、後半は道幅も徐々に狭くなってくるので、小回りが効く原付で良かった。


ドンデン高原ロッジに到着。標高800mのテラスは展望が素晴らしく、星や夜景が綺麗に見えることで有名。おしゃれなランチやフレンチのコースなど、料理の評判も良い。
しかも日帰り入浴にテント場まであるので、ここで一泊するかは最後まで本当に迷った。今回は縦走登山の計画が難しく、いつか再訪した時の楽しみに取っておくことにした。


ドンデン高原ロッジを起点に、半時計回りで周回をスタート。序盤は樹林帯の中を歩くが、ものの5分も歩けば視界が開け、おおらかな高原風景が広がってくる。
尻⽴⼭へと続く、なだらかな稜線。初心者向けのハイキングコースと聞いていたが、高低差はほとんどなく本当に歩きやすい。


あっという間に尻⽴⼭に到着。眼下にはドンデン池と避難小屋、その先にはゆるやかな佐渡の山並みが広がる。
険しい山頂を目指す登山とは違って、景色の中をのんびり歩いてきた時間を振り返るような、穏やかな眺めだった。


そのあとはドンデン池と避難小屋を巡り、ドンデン高原ロッジへと戻った。後半は車道歩きが中心になるので、景色重視なら尻立山で折り返す歩き方でも十分満足できそう。
写真撮りながらまったり歩いてちょうど2時間ぐらい。高山植物の見頃は過ぎていたのが残念だけど、朝の澄んだ空気の中での高原歩きはとても心地よかった。
そしてリトルカブの元に戻り、荷物をまとめてると異変に気づく。お気に入りのギョサンが片方しかない…。朝コンビニに寄った時にはあったはずなのに。
ドンデン高原ロッジのテラスで談笑している方に、「このサンダル落ちてませんでしたか?」と聞くと、上がってくる途中で見かけたらしい!

ということで急いで戻ってみると…あったあああああ!およそ3時間ぶりの感動の再会。ツーリングネットの隙間から落ちてたみたい。
旅先でよく物を失くすんだけど、結構手元に戻ってくることが多いんだよね。こういうとこで日頃の運を使ってる気がする…。
本来なら入川方面へそのまま抜けたかったんだけど、この時期は通行止め。どのみち来た道を戻らないといけなかったのも功を奏した。
そのまま両津方面まで戻り、佐渡の中心をぶった斬る。再び西海岸に出て今度は海沿いで見たかった景色を回収していく。
海から見上げる、尖塔状の断崖絶壁

まず向かったのは、尖閣湾揚島遊園。初日は時間の関係で通り過ぎて、三日目は時間帯が遅かったのでパスしてたけど、どうしてもここは行きたかった。

姫津から北狄まで約3㎞の海岸に広がる5つの小湾の総称で、北欧のフィヨルドに似ていることから、尖閣湾と呼ばれるようになったらしい。
有料の展望台からは、30メートル級の奇岩が連なる雄大な景色を一望できる。岩フェチからしたら、涎ものの絶景が広がる。



せっかくなので水中透視船にも乗船。その名の通り、船底が透明になってて、海中を泳ぐ魚の姿がはっきりと見える。
海上から眺める絶壁は、息を呑む景色。展望台とは違った角度で尖閣湾を堪能できる。でもとんでもなく揺れがすごくて、見事に船酔いした…。
波蝕甌穴に宿る、エメラルドの瞳

続いてさらに北上し、平根崎の波蝕甌穴群へ。ここも時間の都合上初日は通り過ぎてたけど、諦めきれずに舞い戻ってきた。

海水の渦紋浸食によってできた、国内最大規模の甌穴群。円形や楕円形の窪みが重なっていて、月面のようにも見える。
集合体恐怖症の人が見たら、卒倒してしまいそうな奇景。フナムシも大量にいるので、なにかと耐性がある人におすすめしとく。

まるでドリルでくり抜いたような、綺麗な円形の甌穴。
波で運ばれた小石が穴の中で渦を巻いて回転し、長い時間をかけて岩を削り続けることで丸い窪みが育っていくらしい。

藻が発生している窪みもあり、鮮やかな翠色になっていた。遠目からだと瞳のようにも見えて、とても神秘的な雰囲気だった。
自然にできたとは思えないほど、美しい造形にただただ感動。全国的にもすごく貴重で、ぜひ足を運んでもらいたい場所。
波音だけが響く、大間港の遺構

大間港は明治時代中期に築港し、鉱石や石炭など資材の搬入出が行われていた。役目を終えたあとも、産業遺構として残されている。
コンクリートが普及以前に用いられていた、たたき工法によって作られた堤防や護岸、トラス橋、ローダー橋脚などが残されている。

トラス橋は倒壊していて、現在は立ち入り禁止になっていたらしい(知らなかったんです、ごめんなさい…)

クレーン台座の下部がたたき工法の部分。カラフルな石積みがどこか可愛らしい。

海沿いにはローダー橋脚が並んでいて、手前のものは中から鉄筋が見えている。佐渡の青空と海との対比で、よりノスタルジックに感じる。
至る所で老朽化が進んでいるのを感じるが、当時の姿が現代でも残り続ける様を見ると、当時の建築技術の高さが伺える。
役目を終えた構造物が、今も海辺に立ち続けている姿は、不思議と寂しさよりも静かな力強さを感じさせた。
人情たっぷり、デカ盛り肉スパカレー

ちょっと遅めのお昼ご飯は、パーラーつるやへ。昔ながらの洋食レストラン兼喫茶店で、「肉スパ」というB級グルメで有名な店。
ここの肉スパは相川のソウルフードとして有名らしい。朝から動いておなかペコペコ、がっつり系のご飯で胃袋を満たしたい。

肉スパライスカレーを注文。1,500円也。カレーライスとスパゲッティが半分ずつ、皿から溢れそうなほどボリューム満点。
肉スパは和風ベースな味なんだけど、粉チーズがたっぷりで濃厚。豚肉と野菜がたっぷり入ってて、どこか焼肉のタレっぽい風味もある。
背徳感がハンパないけど、佐渡で海鮮食べ飽きた人にはおすすめ。

そこから小木方面へと向かい、矢島・経島のたらい舟乗り場へ。佐渡といえばここは外せない、やはり一度は体験してみたい。


ただ土曜日だったこともあり、とんでもない人の数。インバウンドを中心に人が溢れかえっていて、長い列を待つ気になれず一旦撤退。
朝結構早い時間からやってるので、明日フェリー乗船前に再チャレンジすることに。続いて向かったのは、宿根木の集落。
情緒あふれる宿根木をまったり散策

宿根木は江戸時代から明治時代にかけて、北前船の寄港地・船大工の町として栄えた歴史ある集落。
国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている。佐渡を代表する歴史景観のひとつで、当時の暮らしや港町の面影を感じられる。

限られた土地に建てられた木造家屋が密集し、迷路のような細い路地や、黒い焼杉板の外壁が独特の景観を作り出している。


旧宿根木郵便局。緑色の建物のモダンな雰囲気が、不思議とこの集落に馴染んでいる。

ここで実際に暮らしている人もいて、玄関に郵便受けや花壇があったり、洗濯物が干してあったりと生活感が感じられる。
情緒あふれる景色と、現代の営みが混じり合う不思議な空間。どんどん空き家が増えているらしいけど、いつまでも残ってほしい景色。

ぼくにしては珍しく、縦構図の写真がとても多かった。通路が細く入り組んでるので、高さや奥行きを表現するのに縦がしっくり来た。
カメラ片手に散策する人も多く、写真好きにはたまらないと思う。情緒あふれる街並みを静かに歩き、この日の怒涛の寄り道を締め括った。
素浜で出会った優しさ、佐渡島最後の夜

佐渡島最後の夜は、素浜キャンプ場で過ごす。とにかくここは素晴らしかった。管理人さんがとても親切で、ホスピタリティの塊みたいな人だった。
実はここ夏季限定のキャンプ場らしく、正式なオープンは7月から。ちょうど今準備を進めていたらしく、管理人さんは現地にいたみたい。
諦めて別の場所を探そうと思っていたら、「せっかく問い合わせ頂きましたし、何も案内出していなかったので、よかったら利用しますか?」との神対応。


スーパーで買った刺身と、キンキンに冷えたビール500mlロング缶で乾杯。管理棟は24時間開放されていて、追加料金なしで冷蔵庫が利用できる。
しかも電子レンジ、ポット、充電コンセントも利用できる。指定ゴミ袋もすべてサイト利用料金に含まれており、設備面でも完璧なキャンプ場だ。


そしてなんといっても、この抜群のロケーション。高台にあるサイトは貸切、海に沈む夕陽を独り占めしてしまった。
このサイト目当てで泊まりに来る人も多く、この眺望なら納得の景色。これが夏季限定なんてもったいないなぁ。

ふと目覚めて外に出てみると、夜空には天の川が広がっていた。光害もほとんどないので、肉眼でもはっきりと見えた。
優しい管理人さんの人柄と美しい景色。素浜キャンプ場最高だった。またいつか家族と佐渡に来た時には、是非ここに泊まりたいと思う。
こうして佐渡最後の夜を越えて、島を離れる時が近づく。
最終日|たらい舟に乗って、佐渡を去る

翌朝、素浜キャンプ場での撤収を終え、あとはフェリーに乗船するだけ。このあと大阪へ向けて長い運転が待っているので、最終日は実質自宅への移動日になる。
ただせっかく佐渡に来たなら、やはりたらい舟には乗ってみたい。前日は大混雑で一度は諦めたが、最後にもう一度だけ矢島・経島へ。

本州からの始発便がまだ到着していないので、乗り場に列はなくすぐに案内された。編笠に和服姿の女船頭さんの肩を借りて、そろりとたらい舟へと乗り込んだ。

矢島・経島の海中透視たらい舟は、中央に「箱めがね」と呼ばれるのぞき穴があり、底が透明になっている。
海中を泳ぐ魚や揺れる海藻を眺めながら、佐渡の海を間近に感じられるのが魅力。

舟は女船頭さんが櫓を八の字に操りながらゆっくりと進み、道中ではたらい舟の歴史や漕ぎ方についても丁寧に解説してくれた。
回遊も後半に差しかかった頃、「佐渡島はどうでしたか? 楽しめましたか?」と声をかけてくれた。真っ黒に日焼けした姿を見て、この島を巡ってきたことを察してくれたのかもしれない。
ぼくは、この旅で巡った景色や食べ物のことを話した。念願だった佐渡島へ来られたこと。天気にも恵まれ、たくさんの素晴らしい景色に出会えたこと。
気づけば、なかなか言葉が途切れない。あらためて、この旅が本当に充実したものだったのだと実感した瞬間だった。


そして小木港のフェリーターミナルへと向かった。すでにバイクは船内へ誘導済みで、時間ギリギリで少し焦った。
出発直前にデッキに上がって、佐渡島と最後のお別れ。この島から離れる瞬間は、いつも切ない気持ちになってしまう。

3時間弱の船旅を終えて、係員に誘導されて外へ飛び出す。

駅前のコインパーキングに向かい、5日ぶりにハイエースと再会。いつもは車中泊旅が多いけど、今回は長い間お留守番させてごめんね。
そそくさとラダーを展開し、リトルカブを積載。そこからは再び下道で500km、大阪へ向かってひたすら走り、日付が変わる頃に帰宅した。

こうして大阪から新潟までトランポで移動し、リトルカブで佐渡島を巡る、4泊5日の離島ツーリングは終わりを迎えた。
離島としては日本でも屈指の面積を誇り、回り切れるか心配していたけど、原付だとちょうど良い旅程だったと思う。
自然の雄大さに目を奪われ、歴史ある街並みに足を止めた。佐渡島には、旅人の歩く速度を少しだけゆっくりにしてくれる、不思議な魅力があった。
朝日、夕陽、星空。旅のあいだ、空を見上げた回数は数えきれなかった。佐渡島を巡るこの旅は、一言で表すと空の美しさを感じる旅だった。
この記事を通じて、そんな佐渡島に魅力が伝わっていたら嬉しい。



コメント