山形と宮城の県境にそびえる蔵王連峰。厳冬期の山肌を覆う樹氷は、まるで巨大な雪の怪物のような姿から「スノーモンスター」と呼ばれている。
2020年2月、蔵王ライザワールドからリフトを乗り継ぎ、スノーシューを履いて刈田岳を目指した。雲ひとつない青空の下に広がる樹氷原、風雪が生み出した雪の造形、そして山頂付近の刈田嶺神社で過ごす雪山ランチ。
初めてのスノーシュートレッキングで出会った、厳冬期の蔵王の風景を写真とともに振り返る。
蔵王樹氷トレッキングのルートと行程

蔵王の樹氷を目指し、山形県の刈田岳へ。2020年2月12日に日帰りのトレッキングに出かけた。今回はリフトを利用して標高を稼ぎ、スノーシューを履いて雪原を歩く。
蔵王ライザワールドからリフトを乗り継ぎ、ゲレンデトップへ。そこからスノーシューを履き、樹氷原を抜けて刈田岳を目指す。帰りはリフトを利用せず、歩いてゲレンデまで戻る往復ルートだ。
リフトで標高を稼げる一方、復路は自分の足で下ることになる。樹氷の撮影や山頂での休憩時間も考慮しながら、余裕を持った行程を組みたい。
樹氷が広がる雪原を歩きながら、目指すのは刈田岳山頂に建つ刈田嶺神社。厳冬期ならではの白銀の世界を満喫できるのが、このルートの魅力だ。
刈田嶺神社では、雪洞のようになった建物の中でカップラーメンを食べた。冷たい風が吹く雪山で、温かい昼食を味わう。そんな時間も、冬の山歩きならではの楽しみのひとつだ。
今回のルート確認には、昭文社の「山と高原地図 蔵王」を使用した。登山道や地形、周辺の山々を確認できる登山地図は、ルートの把握や山行計画を立てる際に役立つ。
冬山では積雪や天候によって状況が大きく変わるため、事前のルート確認はもちろん、当日も現在地や進行方向を把握しておきたい。スノーシュートレッキングを計画する際にも、地形を確認するための資料として活用したい一冊だ。
実際に歩いたルートを、下の地図と標高図にまとめた。各区間の距離や標高、所要時間も掲載しているので、蔵王の樹氷トレッキングを計画する際の参考にしてほしい。
地図:国土地理院
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- 蔵王ライザワールド
- 御田ノ神避難小屋
- 蔵王山頂レストハウス
- 刈田岳
- 刈田嶺神社
- 刈田岳
- 蔵王ライザワールド
※行動時間・距離・標高差はヤマレコの記録をもとに掲載しています。
樹氷を訪ねて、山形のライザワールドへ

当時は茨城県に住み、関東の店舗で働いていたころ。同じ職場の先輩、Tさんと二人で蔵王の樹氷を見に行くことにした。
まだ薄暗い早朝、先輩の車で高速道路を乗り継ぎ、山形県の蔵王ライザワールドへ。到着してリフト券を購入し、いよいよ冬の蔵王へと向かう。
建物の軒先には、長く伸びた氷柱。見上げれば、遠くの山並みまで真っ白に染まっている。ゲレンデに出る前から、厳冬期の山らしい景色が広がっていた。


リフトを二本乗り継ぎ、少しずつ標高を上げていく。晴れ渡る青空の下、周囲の木々には雪がびっしりと張り付き、視界は青と白の世界に包まれていった。

ゲレンデトップに到着すると、スキーヤーたちはそれぞれのコースへ滑り出していく。周囲の木々も大きく雪をまとっている。条件がそろえば、このあたりも見事な樹氷へと成長するのだろう。
青空に映える、蔵王のスノーモンスター



歩き出してすぐに、完全に雪と氷に覆われたスノーモンスターたちが姿を現した。人の背丈を大きく超える樹氷が、雪原のあちこちに立ち並んでいる。
さっそく足を止めて撮影を始めた。夢中になって近づきたくなるけれど、樹氷の根元には雪が深く窪んだツリーホールが隠れていることもある。足元には注意が必要だ。

しばらく進むと、蔵王エコーラインの道路上に出た。道標のポールには、風に運ばれた雪が幾重にも付着し、大きなエビの尻尾へと成長している。
風が運ぶ雪や氷が、木々だけでなく人工物までも覆い尽くす。道路沿いには広い駐車場があるものの、積もった雪に覆われ、普段の姿はすっかり隠れていた。
スノーシューで目指す、厳冬期の刈田岳

ここからは装備を整え、スノーシューで刈田岳を目指す。
今回使用したのは、ATLASのアスペクト24と、スノーバスケットを取り付けたHelinoxのトレッキングポールFL-130。同行するTさんは、わかんと12本爪アイゼンを組み合わせていた。
登山道は踏み固められており、歩くことだけを考えればアイゼンでも対応できそうな状態。一方、樹氷原を自由に散策するなら、雪に沈み込みにくいスノーシューの浮力が頼りになる。
トレッキングポールも、雪山では欠かせない装備のひとつ。急な斜面が少ないルートでも、深い雪に足を取られたときに身体を支えてくれる。

さらに進むと、視界が一気に開け、広大な雪原が姿を現した。雲ひとつない快晴で、遠くにはこれから目指す刈田岳が見える。
風が弱まると、周囲から音が消えたような静けさに包まれる。聞こえてくるのは、雪を踏み締めるサクサクという音だけ。白銀の世界を自分の足で進んでいく。


雪原を進むにつれて積雪は深くなり、樹氷の根元も雪の中に埋もれていく。
足元に目を向けると、大きく窪んだツリーホールが見えた。雪に覆われた姿からは想像しにくいけれど、樹氷の下には大きな樹木が立っている。

そんな雪原を歩いていると、ひときわ大きなスノーモンスターが目の前に現れた。やはり蔵王の樹氷はスケールが違う。
思わず自撮りをしたのも、このときばかりは巨大さを写真に残したかったから。見上げるほどの樹氷は、首を垂れてこちらの様子をうかがっているようにも見える。
奥には太陽の光芒が伸び、手前の雪原には大きな影が落ちていた。まるで今にも動き出しそうな雪の怪物。目の前で向き合うと、その大きさと迫力に圧倒された。



巨大な樹氷を横目に、さらに登山道を進んでいく。すぐ脇には、風によって削られた大きな雪の壁が続いていた。
振り返ると、歩いてきたトレースの先に真っ白な朝日連峰が浮かんでいる。目の前の樹氷だけでなく、遠くの山並みまで見渡せるのも、晴れた日の雪山歩きならではの楽しみだ。

観光リフトのワイヤーにも、巨大な雪の塊がまとわりついていた。横長に伸びた雪は、風に運ばれた雪や氷が人工物に付着して成長したものだろう。
樹木だけでなく、山にあるさまざまなものが雪に覆われていく。厳しい自然の力を感じる光景だった。

やがて樹氷が少なくなり、広大な稜線へと出た。なだらかな斜面がどこまでも続き、登山道というよりも、雪に覆われた大きな丘を歩いているような感覚になる。
ここから先は熊野岳方面と刈田岳方面へと道が分かれる。刈田岳へ向かって歩いていくと、左手には蔵王のシンボルともいえる御釜の火口が姿を現す。

無雪期にはエメラルドグリーンの湖面が印象的な場所だが、この時期は一面が雪に覆われ、火口の輪郭だけが白い雪原の中に浮かび上がっていた。
釜のような輪郭は雪の下にかろうじて見て取れるものの、普段の姿とはまるで違う。周辺には大きな雪庇もできているため、景色に見とれて近付きしないように注意したい。




雪面には、風が生み出したシュカブラが刻まれていた。まるで彫刻刀で削ったような、細かな起伏が続いている。
このあたりは風が強く、雪面も硬く締まっていた。歩くたびにガリガリと音が響く。山形と宮城の県境を示すポールも大きなエビの尻尾に覆われ、風雪の厳しさを物語っていた。
遮るものが少ない稜線では、こうした雪の造形が生まれやすいのだろう。無雪期には多くの観光客で賑わうレストハウスも、すっかり雪に埋もれている。
稜線に出てからは風が一段と強まり、山頂を目前にして、たまらずレストハウスの陰でひと休みした。バラクラバがなければ、顔が凍傷になりそうなほどの寒さだった。

刈田岳山頂に到着。標高1,758m。御釜や熊野岳を望む展望のよい場所だ。
山頂標識は雪に埋もれ、文字の部分だけがきれいに顔を出している。その姿は、どこかポン・デ・ライオンのよう。繰り返し訪れる登山者たちが、標識の周りの雪を取り除いているのかもしれない。
ここまで歩みを支えてくれたトレッキングポールと一緒に記念撮影。自分自身を撮ることはあまりないけれど、山道具と景色を残す写真は多い。
人気の山では山頂標識の前に撮影待ちの列ができることもあるけれど、この日はほかの登山者の姿もほとんどなかった。静かな雪山を自分たちのペースで歩けるのも、冬山の魅力だと思う。

山頂付近からは、蔵王連峰の南側に広がる屏風岳方面の山並みも見渡せた。雪に覆われた山肌は、季節が変われば高山植物が咲く景色へと姿を変える。
今回はライザワールドから刈田岳を往復する行程だったけれど、いつかは蔵王連峰を縦走する山旅にも挑戦してみたい。蔵王温泉側から眺める樹氷原にも興味がある。
山頂で景色を眺めながら、次に歩いてみたい山へと思いを巡らせる。そんな時間も、山頂で過ごす楽しみのひとつだ。
凍てつく刈田嶺神社で、雪山ランチ

刈田岳山頂には、大きな鳥居が立つ刈田嶺神社がある。鳥居や周囲の構造物にも雪や氷が付着し、風下側にはエビの尻尾が大きく伸びていた。
厳冬期の蔵王では、木々だけでなく、山にあるさまざまなものが雪のオブジェへと姿を変える。普段見慣れた人工物でさえ、自然が作り出す造形の一部になっていた。


雪に覆われた神社の建物は、まるで天然のかまくらのようになっていた。吹き荒れる強風の中、身を落ち着けられる場所があるのはありがたい。
建物の中から外を眺めると、青空の下をボードを担いだ登山者が歩いていく姿が見えた。これから樹氷の間を滑り降りるのだろう。バックカントリーにも憧れはあるけれど、登り返しの大変さや、復路の写真を撮れなくなることを考えると、なかなか挑戦できずにいる。

ここで昼食にする。今回は手軽さを優先してバーナーは持たず、mont-bellのアルパインサーモボトルにお湯を入れて持参した。雪の上に腰を下ろし、カップ麺で手早くエネルギーを補給する。
ところが、熱湯を注いだはずなのに、待っている間にもお湯はどんどん冷めていく。5分待つタイプの麺は、雪山では相性が悪かった。
いざ食べてみると、スープはすっかり冷め、麺には芯が残っていた。お世辞にもおいしいとはいえないけれど、食べられないほどでもない。補給食と割り切りながら、雪山で温かい食事を取ることの難しさを実感した昼食だった。
それでも、雪山で保温ボトルがある安心感は大きい。外気温が氷点下になる環境では、ペットボトルの飲み物も時間がたつと凍ってしまうことがある。
温かいお湯が喉を通るたびに、ほっとする。今回のように食事で失敗することはあっても、水分を確保するための保温ボトルは持ってきてよかった。
雪山だけでなく、夏山や日常生活でも活躍するアルパインサーモボトル。山道具の中でも、出番の多いアイテムのひとつになっている。
樹氷の絶景を眺めながら下山







昼食を終え、来た道を引き返す。往路で見た樹氷も、帰りにはまた違った角度から目に入る。
丸みを帯びた雪の塊、風に押し流されるように伸びた氷、青空と白い雪原の境界。ひとつとして同じ形のない樹氷が、広大な斜面に立ち並んでいる。
空には少しずつ雲が増え、日差しも傾いてきた。鮮やかな青と白の世界が、ゆっくりと落ち着いた色合いへと変わっていく。


ゲレンデトップへ戻る前に、もう一度樹氷原へ。最後にスノーモンスターたちの間を歩き、名残惜しい時間を過ごした。
念願だった蔵王の樹氷は、想像していた以上の大きさと迫力だった。初めてのスノーシュートレッキングということもあり、雪の上を自由に歩く楽しさを知る、忘れられない山行になった。
この日をきっかけに、雪山登山にも樹氷にも惹かれるようになった。いつか蔵王温泉側を絡めた縦走にも挑戦してみたい。東北の山々への興味も、さらに広がっていった。
蔵王のスノーモンスターを訪ねて

青空の下に広がる樹氷原を歩き、刈田岳の山頂を目指した一日。
雪と氷が作り出す巨大な造形、風が刻んだ雪面の模様、そして静寂に包まれた雪原。初めてのスノーシュートレッキングには、驚きと発見が詰まっていた。
山頂で味わった寒さも、思い描いていたようにはいかなかった雪山ランチも、今となっては冬の山旅の大切な思い出だ。
蔵王のスノーモンスターに魅せられたこの日から、雪山への興味はさらに深まっていった。初めてのスノーシュートレッキングで出会った白銀の世界は、その後も冬の山へと足を運ぶきっかけになった。

それから数年後、再び樹氷の森を訪ねて西吾妻山へ。そこでは日中の絶景に加え、山小屋で迎える夕景や満天の星空にも出会うことができた。

